太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

書評

永田希『積読こそが完全な読書術である』感想〜書庫という開かれた可能性の集合体を RAG 可能なビオトープとして愛でる

積読こそが完全な読書術である 読めないことにうしろめたさを覚える必要などない。 まずはこの本を読んで、堂々と本を積もう。 気鋭の書評家が放つ、逆説的読書論! 情報が濁流のように溢れかえり、消化することが困難な現代において、 充実した読書生活を送…

トム・スタンデージ『謎のチェス指し人形「ターク」』感想〜「出来らぁっ!」から始まる機械知性 250 年間の Fake it till you make it.

250 年前のチェス AI とバズったタークの正体 『ヴィクトリア朝時代のインターネット』著者、もうひとつの傑作。18 世紀のウィーンにチェスを指す自動人形(オートマトン)が現れた。あまりに優れた性能のためたちまちヨーロッパ中で話題になるが、その真相…

御田稔, 大坪悠『やさしい MCP 入門』感想〜コンテキストエンジニアリング時代に有用なコンテンツと本というメディアの不整合

やさしい MCP 入門 AI エージェント時代の標準規格 MCP(モデル コンテキスト プロトコル)の入門書。 大バズりしたスライド「やさしい MCP 入門」の著者が新技術の基礎をやさしく解説。 やさしいMCP入門作者:御田稔,大坪悠秀和システムAmazon 2025 年の初頭…

廣田龍平『ネット怪談の民俗学』感想〜インターネット老人会語りをしたくなるネット怪談の変遷とシミュレーション仮説の認知戦

インターネットの進化とともに歩むネット怪談 空前のホラーブーム、その源流がここにある。 ネット怪談はどのように発生し、伝播するのか。きさらぎ駅、くねくね、リミナルスペース……ネット民たちを震え上がらせた怪異の数々を「共同構築」「異界」「オステ…

柞刈湯葉『未来職安』感想〜LLM 無職時代を予見した脱力系ディストピアにおける"生産者"とは

LLM 無職時代の到来 ChatGPT や Claude Code をはじめとする AI Agent が人間の「書く・考える・決める」といったタスクを代替し始めており、まずは業務委託契約の更新などについてのシビアな声も聞くようになってきた昨今。巷では「LLM 無職」なんて言葉も…

佐野大樹『生成 AI スキルとしての言語学』感想〜選択体系機能言語学における命名と分類と理論化から学ぶプロンプトエンジニアリング

言語学を軸にした生成 AI 活用の新視点 生成 AI とのコミュニケーションは、プログラミング言語のような形式言語でなく、私たちが普段使っている言葉、自然言語で行われています。 言語学が研究の対象としてきたのは、この「自然言語」なのです。 私たちは、…

小川哲『君のクイズ』感想〜人間 LLM としての強化人間同士の競技クイズと記号接地問題

驚異のゼロ文字押し、その真相 クイズ番組の決勝で、僕の対戦相手は1文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たす。彼はなぜ正答できたのか? 推理作家協会賞受賞&本屋大賞6位、圧巻のエンターテインメント。文庫化に際し短編小説「僕のクイズ…

ズンク・アーレンス『TAKE NOTES!』感想〜AIツールに魔改造されてしまったツェッテルカステンのそもそも論

ツェッテルカステンのそもそも論 58 冊の本と、数百本の論文という、大量の執筆をしたニクラス・ルーマンという社会学者がいます。彼の著作のクオリティはずばぬけていて、専門分野以外でも古典的名著になっています。 どうしてそんなことができたのか? そ…

阿部由延『AITuberを作ってみたら生成AIプログラミングがよくわかった件』感想〜楽しい趣味としてのプログラミングとクリエイティビティの総合格闘技

AITuberを作りながら生成AIプログラミングを学ぶ プログラミングを学んでいる人なら、誰もが気になる生成AI。どのように生成AIを利用して、生成したデータをどのように生かすのか。どのようにアプリケーションに組み込むのか。実例が知りたいですよね。 そこ…

John Berryman『LLM のプロンプトエンジニアリング』感想〜エイリアン・インテリジェンスへのカーゴ・カルトから演繹的な恋愛工学へ

LLM のプロンプトエンジニアリング LLM のポテンシャルを最大限活かし、期待通りの精度の高いアウトプットを引き出すためには、LLM の能力や特性を正しく評価、把握し、綿密な設計に基づいたプロンプトを組み立てることが必要です。本書では、まず LLM を理…

小野哲『生成 AI アプリ開発大全』感想 〜Dify によるLLMワークフロー構築の「おきまり」を通して体験する既知への安堵と未知への感動

Dify の探求と実践活用 本書は DIfy の活用方法をアプリを作りながらさまざまな視点から解説します。例を挙げるとチャットボット、RAG、エージェント、ワークフロー、ノードの活用、各種ツールや API の使い方、チャットフローの作り方まで詳しくフルカラー…

ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史』感想〜エイリアン・インテリジェンスの作り出す新しい現実に支配されつつある歴史的経緯の果て

AI =エイリアン・インテリジェンスの誕生 『サピエンス全史』を超える衝撃―― 知の巨人、6 年ぶりの書き下ろし超大作 「ネクサス」(NEXUS)とは? ――「つながり」「結びつき」「絆」「中心」「中枢」などの意 石器時代からシリコン時代まで、 「組織」(ネ…

大塚あみ『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』感想〜 生成AIに「育てられた」第1世代のバイブスアーカイブ

成AIに「育てられた」第1世代 怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、ノリでプログラミングに取り組んだら、教授に褒められ、海外論文が認められ、ソフトウェアエンジニアとして就職できた。 大学4年の春。授業でChatGPTを知った私は、宿題をサボるためにそ…

アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』感想〜宇宙的災害ユートピアから放り投げられる論理的で倫理的な祈り

プロジェクト・ヘイル・メアリーというタイトルの秀逸さ 地球上の全生命滅亡まで30年……。 全地球規模のプロジェクトが始動した! グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、…

藤井太洋『ハロー・ワールド』感想〜政治性を帯びた新技術によってあり得たかもしれない静かな革命への祈り

ハロー・ワールド! エンジニアの文椎(ふづい)が作った広告ブロックアプリがインドネシアで突如売れ始めた。そこに隠された驚愕の事実とは。検閲や盗撮などの問題を描いた表題作「ハロー・ワールド」をはじめ、インターネットの自由を脅かす行為に、知識と…

ピエール バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』感想〜読書感想という書物と書物の外側にある実と虚の皮膜

読んでいない本について堂々と語る方法 本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだ――大胆不敵なテーゼをひっさげて、フランス文壇の鬼才が放つ世界的ベストセラー。ヴァレリー、エーコ、漱石など、古今東西の名作から…

稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』感想〜万人の万人に対する象徴闘争から覚醒させられる「編集権の簒奪」というチートスキル

映画を早送りで観る人たち なぜ映画や映像を早送り再生しながら観る人がいるのか――。なんのために? それで作品を味わったといえるのか? 著者の大きな違和感と疑問から始まった取材は、やがてそうせざるを得ない切実さがこの社会を覆っているという事実に突…

冬野梅子『まじめな会社員』感想〜無難な真面目系クズは自分のランキングが低いとコロナ禍で自覚させられる問題

『まじめな会社員』の痛み コロナ禍における、新種の孤独と人生のたのしみを、「普通の人でいいのに!」で大論争を巻き起こした新人・冬野梅子が描き切る! 菊池あみ子、30歳。契約社員。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せず…

石田夏穂『我が友、スミス』感想〜別の生き物になりたいからこそ意識させられるクラシックなジェンダー規範の檻と逸脱

『我が友、スミス』感想 【第45回すばる文学賞佳作、第166回芥川賞候補作】「別の生き物になりたい」。筋トレに励む会社員・U野は、Gジムで自己流のトレーニングをしていたところ、O島からボディ・ビル大会への出場を勧められ、本格的な筋トレと食事管理…

濱野ちひろ『聖なるズー』感想〜人間以外にも倫理的で対等なパーソナリティを求めるが故の動物性愛という異常

『聖なるズー』感想 過去に十年間にわたってパートナーから身体的、肉体的DVを受け続けた経験を持つ著者は、愛と性を捉えなおしたいという強い動機から、大学院で動物性愛を研究対象に選び、さらにズーたちと寝食をともにしながら、人間にとって愛とは何か…

猪熊ことり『婚活バトルフィールド37』感想〜婚活ランキングが発生し得ない残り三割同士の地獄さ行ぐんだで

婚活バトルフィールド37 大手派遣社員・赤木ユカは、そこそこの美人。男に困ったことはなく、ゆるゆると生きてきたが、気がつけば37才。「ここいらで結婚しておくか」と婚活を始めるも、そこで待ち受けていたのは、想像を超えた戦いで――。幸せの形が多様化し…

糸井のぞ『僕はメイクしてみることにした』感想〜すべてはモテるためでもないリアルアバター美容入門

『僕はメイクしてみることにした』 38歳の平凡なサラリーマンが飛び込んだメンズ美容の世界。ドキドキの冒険! 前田一朗、38歳、独身。平凡なサラリーマン。ある日、自分の疲れ切った顔とたるんだ体を見てショックを受けた一朗は一念発起、スキンケアやメイク…

『妻の飯がマズくて離婚したい』感想〜自分の気持ち至上主義の横軸と食は三代ガチャの縦軸が絡む家族という地獄

妻の飯がマズくて離婚したい 結婚とは、生まれも育ちも異なる他人同士が「家族」になることです。価値観の相違をすり合わせながら、お互いにとって心地のいい関係を築いていくことが、結婚生活の一番の課題なのかもしれません。今回は三大欲求のひとつとも言…

熊代亨『何者かになりたい』感想〜アイデンティティ獲得の攻略本と主体的な選択の余地に悩める幸運への感謝

「何者かになりたい」 と思ったことがなかった 「自分」に満足できないのは、なぜ? 〈承認欲求〉〈所属欲求〉〈SNS〉〈学校・会社〉〈恋愛・結婚〉〈地方・東京〉〈親子関係〉〈老い〉 アイデンティティに悩める私たちの人生、その傾向と対策。 「何者かに…

磯部涼『令和元年のテロリズム』感想〜生まれなければ苦しみもない反出生主義を後押しする主義なき爆弾の連鎖

令和元年のテロリズム 改元直後、日本を震撼させた3つの事件の現場を『ルポ 川崎』の著者が追う。 まったく素顔が見えない川崎の無差別殺人犯・岩崎隆一。元農水事務次官の長男・熊澤英一郎は父親に殺されるべきだったのか? 戦後で最も多くの死者が出た京…

三秋縋『恋する寄生虫』感想〜自由意志に介入する物理除去が可能な呪詛と祝福の二虫一体

三秋縋『恋する寄生虫』 「ねえ、高坂さんは、こんな風に考えたことはない? 自分はこのまま、誰と愛し合うこともなく死んでいくんじゃないか。自分が死んだとき、涙を流してくれる人間は一人もいないんじゃないか」 失業中の青年・高坂賢吾と不登校の少女・…

河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』感想〜超高度ノー酸素単独登頂デスマッチの無観客興行に内包されるプロバビリティの死

河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』 【第18回(2020年)開高健ノンフィクション賞受賞作!】両手の指9本を失いながら〈七大陸最高峰単独無酸素〉登頂を目指した登山家・栗城史多(くりきのぶかず)氏。エベレスト登頂をインターネットで生中…

今村夏子『あひる』感想〜現実と直交する「やった感」によって「にぎやかな我が家」を作り出そうとするカーゴ・カルトの悲哀と祝福

今村夏子『あひる』 我が家にあひるがやってきた。知人から頼まれて飼うことになったあひるの名前は「のりたま」。娘のわたしは、2階の部屋にこもって資格試験の勉強をしている。あひるが来てから、近所の子どもたちが頻繁に遊びにくるようになった。喜んだ…

福本伸行『賭博黙示録カイジ』電子版全巻605円セールで改めて体感する初期カイジの凄み

賭博黙示録カイジのセール これまでカイジシリーズについてサウナやネットカフェなどで何度も読んでいたものの、改めて買おうとなると尻込みしていた。それが Kindle セールで賭博黙示録シリーズ全巻が605円になっていて購入した。3巻までは誰でも無料。Kind…

柳澤健『2016年の週刊文春』感想〜毎週毎週行われる一億円の大博打を続ける雑誌界の銀河系軍団

『2016年の週刊文春』とノンフィクション いま、日本で最も恐れられる雑誌と、 愚直な男たちの物語――。 花田紀凱と新谷学。ふたりの名編集長を軸に、昭和、平成、令和の週刊誌とスクープの現場を描く痛快無比のノンフィクション。 2016年の週刊文春作者:柳澤…