太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

書評

河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』感想〜超高度ノー酸素単独登頂デスマッチの無観客興行に内包されるプロバビリティの死

河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』 【第18回(2020年)開高健ノンフィクション賞受賞作!】両手の指9本を失いながら〈七大陸最高峰単独無酸素〉登頂を目指した登山家・栗城史多(くりきのぶかず)氏。エベレスト登頂をインターネットで生中…

今村夏子『あひる』感想〜現実と直交する「やった感」によって「にぎやかな我が家」を作り出そうとするカーゴ・カルトの悲哀と祝福

今村夏子『あひる』 我が家にあひるがやってきた。知人から頼まれて飼うことになったあひるの名前は「のりたま」。娘のわたしは、2階の部屋にこもって資格試験の勉強をしている。あひるが来てから、近所の子どもたちが頻繁に遊びにくるようになった。喜んだ…

福本伸行『賭博黙示録カイジ』電子版全巻605円セールで改めて体感する初期カイジの凄み

賭博黙示録カイジのセール これまでカイジシリーズについてサウナやネットカフェなどで何度も読んでいたものの、改めて買おうとなると尻込みしていた。それが Kindle セールで賭博黙示録シリーズ全巻が605円になっていて購入した。3巻までは誰でも無料。Kind…

柳澤健『2016年の週刊文春』感想〜毎週毎週行われる一億円の大博打を続ける雑誌界の銀河系軍団

『2016年の週刊文春』とノンフィクション いま、日本で最も恐れられる雑誌と、 愚直な男たちの物語――。 花田紀凱と新谷学。ふたりの名編集長を軸に、昭和、平成、令和の週刊誌とスクープの現場を描く痛快無比のノンフィクション。 2016年の週刊文春作者:柳澤…

松本千秋『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』感想〜実録38歳女子のイケメンパラダイス異世界転生

38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果 cakesの大人気連載、待望の書籍化! 幻冬舎+テレビ東京+note「#コミックエッセイ大賞」第1回入賞作品 もうすぐ40歳、再婚する気まるでなし。 イケメン沼にハマったチアキの実録恋愛ストーリー 38歳バツ…

カレー沢薫『ひとりでしにたい』〜ロマンティックな孤独死は存在するか?

カレー沢薫『ひとりでしにたい』 バリバリのキャリアウーマンで生涯独身だった伯母が孤独死。黒いシミのような状態で発見された。衝撃を受けた山口鳴海(35歳独身)は婚活より終活にシフト。誰にも迷惑をかけず、ひとりでよりよく死ぬためにはよりよく生き…

風間一輝『地図のない街』感想〜地獄の断酒の中で取り戻していく未来と名前が描かれた地図

地図のない街 雪の夜、チンピラ二人組にボーナス袋を強奪され、北岡吾郎の平凡なサラリーマン人生は終わりを告げた。彼は相手を叩きのめしてドロップアウト、いつしか山谷に流れついていた。自由気儘なその日暮らし、今では立派なアル中だ。そんな彼が、同じ…

今村夏子『こちらあみ子』感想〜環世界に埋めがたいズレがあるのに発揮される積極性の罪と罰

『こちらあみ子』の衝撃 以前に、『ピクニック』を読んでも何も感じない人間について書いていたのだけど、表題作の衝撃度のが高かった。 あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母…

柚木麻子『ナイルパーチの女子会』感想〜怠惰なブロガー的コミュニケーションの隘路とラブファントム

ナイルパーチの女子会 商社で働く志村栄利子は愛読していた主婦ブロガーの丸尾翔子と出会い意気投合。だが他人との距離感をうまくつかめない彼女をやがて翔子は拒否。執着する栄利子は悩みを相談した同僚の男と寝たことが婚約者の派遣女子・高杉真織にばれ、…

今村夏子『ピクニック』を読んで何も感じない人間と外部の語りにこそ本質が宿るドキュメンタリー

『ピクニック』を読んで何も感じない人間 既に32回ぐらい詳細なネタバレをくらって高精度な脳内上映ができるようになってしまった『花束みたいな恋をした』。本作に「『ピクニック』を読んでも何も感じない人間」という台詞が二回あると教えてもらって読んで…

原尚美『マンガでわかる管理会計』〜真のコスパ厨として不確実性を排した儲けの意思決定力を身に付ける

マンガでわかる管理会計 『マンガでわかる管理会計:はじめてでもわかる儲けのからくり』を税理士の原尚美先生から献本いたただいた。 経営をよくする管理会計のしくみと基本が、マンガで楽しくわかる! 本書は、父親の経営する和菓子会社の経営改善のために…

久部緑郎『らーめん再遊記』感想〜コロナ直前のラーメン事情と安全なイデオロギー闘争

ラーメン語りの再定義 TRYラーメン大賞2019はラーメン語りの世代交代が明確になった記念碑的な会となっていた。 石神秀幸は、そう残して完全引退する。ラーメンという大衆食の評価を少数の権威に任せるのは難しい時代になった。大衆が人気店を決める中でも評…

「黒色が光を吸収しやすい」のではなく光を反射しない素材が黒く見える

黒色無双の実現方法 本商品は、プラモデルや各種模型に使用する黒色の水性アクリル塗料。エアブラシ塗りで可視光域全反射率0.8%を実現しており、同社の吸光シート「ファインシャット極」と同等の光吸収率を持つ、世界一黒い水性アクリル塗膜だという。 世界…

吉本浩二『日本をゆっくり走ってみたよ』〜独りよがりの間接的自傷と再生

あの娘のために日本一周 連載作品が終了し、ぽっかり時間が空いた、漫画家の吉本浩二先生は、日本一周バイクの旅に出た。全国にいる大学時代の友達、昔のアシスタントに会い、吉本さんの胸に去来するものは何か? しかし最大の理由は、忙しくてなかなか会え…

ゆるりまい『私のウチには、なんにもない。』〜物を捨てたい依存症と捨てられる物が増える奇妙な共犯関係

掃除の前に片付け 部屋の環境を良くしていこうと思うほどに家の物を減らすのが近道だと気づく。結局のところでホコリが溜まるのは家具と壁の間であったり、押し入れにしまいっぱなしの半不用品や収納棚だ。 写真と文章で自宅を紹介するスタイリッシュなブロ…

仮想本棚スクリーンとしての縦型ピポットディスプレイでセレンディピティ

ピポットディスプレイで仮想本棚 もはや殆んどの本を電子書籍で購入するようになっているし、物理的な本は実家に置いてあるので部屋の本棚を処分したのだけど、それはそれで背表紙からの連想だったり、抱えている課題感を言語化してくれる書名を見つけたりと…

勝間和代『勝間式 超ロジカル家事』〜合理主義の伸び代は家事にこそある

ロジカル家事の実践 自身も3人の娘を育ててきたワーママである勝間和代が、仕事でつちかってきた超効率化、経済スペシャリストのスキルを全力投入して確立した、家事と家計を徹底的にラクにする方法をわかりやすく紹介します。 勝間式 超ロジカル家事作者:勝…

町田康『しらふで生きる』感想〜酒を飲んでも飲まなくても人生は寂しい

しらふで生きる 4年前の年末。「酒をやめよう」と突如、思い立ち、そこから一滴も飲んでいない作家の町田康さん。「名うての大酒飲み」として知られた町田さんが、なぜそのような決断をしたのかを振り返りながら、禁酒を実行するために取り組んだ認識の改造…

やままあき「喫茶アメリカンについて言いたいことやまやまです」〜伝説のサンドウィッチ店への5年間定点観測と観測者効果という両想い

伝説のサンドイッチ店の定点観測 1人前=食パン1斤!「大きすぎるサンドイッチ」で連日行列が絶えない小さな喫茶店、東京・銀座の「アメリカン」。2014年から通い続けるブロガー・やままが書き溜めた約5年間の訪問記が電子書籍になりました。文字数はたっぷ…

清野とおる『東京怪奇酒』〜怪談ディテールへの「おこだわり」の実在性

東京ウォーカーで東京怪奇酒 普段から Kindle Unlimited で『東京ウォーカー』を毎月購読しているのだけど、現在の東京ウォーカーは東京の名所やグルメ情報に加えて、コナリミサトや新久千映などのコミックエッセイが集まる漫画雑誌の様相を呈してきている。…

町中華探検隊『町中華とはなんだ』〜「正解」がないから集まる複数の視点

町中華とはなんだ ここ最近、中華料理を食べようと思うと日高屋や王将などのチェーン店か来日中国人の本格仕様に二極化していて、炒飯や中華丼やレバニラ炒めなんかを提供する大衆的な個人店に入る事がめっきり少なくなったと気づく。 うまいわけではない。…

高橋ユキ『つけびの村』〜 「10年後に話す真相」のリアリティラインの眩暈

つけびして 煙り喜ぶ 田舎者 本書は2013年に山口県にあるわずか12人の住民のうち、限界集落で一夜にして五人が殺害された山口連続殺人放火事件の核心に迫るルポタージュである。 焼失した女性A宅の隣家には、「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」と白い紙に毛筆の…

『がっこうぐらし!』完結で突きつけられる考察厨の虚しさ

がっこうぐらし!完結 学園日常系とゾンビサバイバルが悪魔合体した『がっこうぐらし!』が完結した。「わたしたちはここにいます」を回収したり、能力主義や規律管理は極限状態でこそ破綻していくといった内容が描かれていてよかったのだけど、各所にある思…

ヴァレリー『テスト氏』〜カイエの結晶を集合的無意識から採掘すること

テスト氏 「テスト」と聞くと、どうにも『テスト氏 (福武文庫)』を思い出す。教養コンプレックスだったときに読んだ本であり、僕が毎日書く事に改めてこだわり始めたのは、ヴァレリーの「カイエ」の影響もある。 ヴァレリーは23歳から死ぬまで公表を前提とし…

Amazon 大規模セール中に欲しいものリストから検索してて気づく行動制約

Amazon Cyber Monday Amazon の Cyber Monday で Kindle本が最大60%OFFになっているのだけど、対象の本が多すぎて探しきれないという問題があった。Amazon のセール対象の追加フィルター機能は貧弱で、例えば「写真集・分冊本・謎エロ漫画を除外する」といっ…

かっぴー『左ききのエレン』〜アートと商品で揺れ動く共感の物語

かっぴー『左ききのエレン』 朝倉光一は、大手広告代理店に勤める駆け出しのデザイナー。いつか有名になることを夢みてがむしゃらに働く毎日だった……。もがき苦しむ日常の中で、高校時代に出会った天才・エレンのことを思い出していた。 原作版 左ききのエレ…

平直行『U.W.F.外伝』〜刃牙のモデルとなった黎明期のプロ総合格闘家自伝

プロレスの敵だった総合格闘 中学生の頃から毎週のようにワールドプロレスリングやGAORAのプロレス放送を観ていたし、ここ最近でもKindle Unlimitedで『週刊プロレス』や『有田と週刊プロレスと』が欠かせない。 No.001 語り継がれる伝説の虎!初代タイガー…

ふろむだ『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』〜一貫して偏った、説得力のあるアジテーションで勘違いさせる力

運と実力だけじゃない 本書は『分裂勘違い君劇場 by ふろむだ』を運営する ふろむだ ( id:fromdusktildawn ) 氏の著書。分裂勘違い君劇場といえば、新会社員になりたての頃に散々読み漁った記憶があるブログ。よちよちだった自分の考え方に良くも悪くも影響…

秦本幸弥『かいぜん!~異世界コンサル奮闘記~』〜なろう系ビジネスライトノベルは課題の前提が違うから面白い

かいぜん! ここ最近はITエンジニアというよりも、ビジネスサイドに移って商品設計や業務プロセス改善などを担うことが多かったのだけど、財務会計やマーケティングなどの専門知識が付け焼き刃すぎて苦労することが多かった。 ビジネス書というと創業者の自…

借金玉『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』〜ヒロイックな発達障害の制約と誓約の嘘

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術 “カドカワさん「そういうわけで、やる?期間は半年。その間にすんごいPV達成したら書籍化。PVが残念な数字だったら残念賞。やる?」” 8月が終わるけどどうなったんだろう / “プレ公開と経緯説明、そ…