太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

『ドライブ・マイ・カー』感想〜赦すための怒りをやり過ごしてしまった絶望と悲しみを乗り越えずに受け入れる

『ドライブ・マイ・カー』感想 舞台俳優であり演出家の家福(かふく)は、愛する妻の音(おと)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう。 2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去を抱える寡黙…

冬野梅子『まじめな会社員』感想〜無難な真面目系クズは自分のランキングが低いとコロナ禍で自覚させられる問題

『まじめな会社員』の痛み コロナ禍における、新種の孤独と人生のたのしみを、「普通の人でいいのに!」で大論争を巻き起こした新人・冬野梅子が描き切る! 菊池あみ子、30歳。契約社員。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せず…

石田夏穂『我が友、スミス』感想〜別の生き物になりたいからこそ意識させられるクラシックなジェンダー規範の檻と逸脱

『我が友、スミス』感想 【第45回すばる文学賞佳作、第166回芥川賞候補作】「別の生き物になりたい」。筋トレに励む会社員・U野は、Gジムで自己流のトレーニングをしていたところ、O島からボディ・ビル大会への出場を勧められ、本格的な筋トレと食事管理…

濱野ちひろ『聖なるズー』感想〜人間以外にも倫理的で対等なパーソナリティを求めるが故の動物性愛という異常

『聖なるズー』感想 過去に十年間にわたってパートナーから身体的、肉体的DVを受け続けた経験を持つ著者は、愛と性を捉えなおしたいという強い動機から、大学院で動物性愛を研究対象に選び、さらにズーたちと寝食をともにしながら、人間にとって愛とは何か…

猪熊ことり『婚活バトルフィールド37』感想〜婚活ランキングが発生し得ない残り三割同士の地獄さ行ぐんだで

婚活バトルフィールド37 大手派遣社員・赤木ユカは、そこそこの美人。男に困ったことはなく、ゆるゆると生きてきたが、気がつけば37才。「ここいらで結婚しておくか」と婚活を始めるも、そこで待ち受けていたのは、想像を超えた戦いで――。幸せの形が多様化し…

おねショタに没入できないミドルエイジクライシスをエシカルでサスティナブルな女上司モノで癒す

加齢によって没入できないジャンルが増えた 漫画やアニメやライトノベルを摂取しようとなると主人公が少年ないし青年のことが多いが、中年を迎えた自分にはしんどくなってきている。一般的な文系作品であれば別に主人公に感情移入できなくても良いのだけど、…

糸井のぞ『僕はメイクしてみることにした』感想〜すべてはモテるためでもないリアルアバター美容入門

『僕はメイクしてみることにした』 38歳の平凡なサラリーマンが飛び込んだメンズ美容の世界。ドキドキの冒険! 前田一朗、38歳、独身。平凡なサラリーマン。ある日、自分の疲れ切った顔とたるんだ体を見てショックを受けた一朗は一念発起、スキンケアやメイク…

ラーメンライス麺抜きおかず付きとしてのダルバート

ラーメン食べ歩きの引退とダルバートとの出会い 『ラーメン発見伝』や『らーめん才遊記』を読み直したのをきっかけにラーメンの食べ歩きをゆるゆるとしていたのだけど、正直なところでピンと来る店がほとんどなかった。人気店だったり、レビューが高い店で食…

サイゼリヤ初デート問題で大人は好意のない相手とでもデートしてるんだと知った

サイゼリヤで初デートについて話した サイゼリヤで初デートが云々とTwitterのTLでバズっていて、10年前から定期的に炎上しているし、その度にサイゼリヤオフ会をしていると思いながらもスペースで会話したので感じたことを記録しておく。そんなの「人による…

『妻の飯がマズくて離婚したい』感想〜自分の気持ち至上主義の横軸と食は三代ガチャの縦軸が絡む家族という地獄

妻の飯がマズくて離婚したい 結婚とは、生まれも育ちも異なる他人同士が「家族」になることです。価値観の相違をすり合わせながら、お互いにとって心地のいい関係を築いていくことが、結婚生活の一番の課題なのかもしれません。今回は三大欲求のひとつとも言…

M1 MacBook Air と Dell S2722QC を安定的につなぐには Apple 純正 Thunderbolt 3(USB-C) ケーブルが必要

4K の USB-C モニターを購入 MacBook Air に合う 4K の USB-C モニターを検討していたのだけど、発売されたばかりの Dell S2722QC に決めた。実売5万円以下にしては4K 27インチのIPSパネルで各種調整機能も申し分がないし、複数のHDMI端子にゲーム機や映像端…

生まれなければ苦しみもない現世利益型の反出生主義がミニマリズムやFIREと思想的に接続していく

不用品を手放す夏 あまりブログを更新していなかった夏の間に何をしていたのかと言えば部屋の片付けや不用品の売却であった。これを機会にフリマアプリを使おうとも思っていたのだけど、梱包とかクレーム対応とか色々面倒になって持ち込み買取のできるビック…

『東京自転車節』感想〜東京2020の焼け野原を往復し続ける人間という名のロボットになりきれないロボット

『東京自転車節』レビュー 東京都でのコロナウィルス新規罹患者が5,000人を超え、台風も近づいているなかで家にいるべきかを悩んだが、今見ておくべき映画だと思いポレポレ東中野で鑑賞。奇しくも『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』の予告が流れて、ち…

『ミセス・ノイズィ』感想〜在宅ワークとワンオペ育児の両立という無理ゲーを覆い隠すノイズを発していたのは誰だったのか

『ミセス・ノイズィ』感想 映画公開された時から気になっていたが、コロナ下で観られていなかった作品が配信レンタル解禁されたので鑑賞した。 小説家であり、母親でもある主人公・吉岡真紀(36)。 スランプ中の彼女の前に、ある日突如立ちはだかったのは、…

『犬鳴村 恐怖回避ばーじょん』感想〜拡張現実で「弱々しさ」を炙り出すホラー抜きのホラー映画に残る業

『犬鳴村 恐怖回避ばーじょん』 あなたは日本最凶の心霊スポット“犬鳴村"を知っていますか? 九州に実在する最恐の心霊スポット旧犬鳴トンネル。その近くには日本政府の統治が及ばない集落“犬鳴村"があり、そこに立ち入った者は決して戻れないという、都市伝…

『花束みたいな恋をした』感想〜サブカル神経衰弱では立ち向かえなかった<生活>といううすのろと<恋愛>という邪魔者

同じ音楽を違う音で聞いていた最高の5年間 配信解禁を待ち侘びていた『花束みたいな恋をした』をU-NEXTで観た。すでに Clubhouse やネットラジオなどで詳細なネタバレをされても何も感じない人間になってしまっていたのだけど、初鑑賞をすると全く語り尽くさ…

熊代亨『何者かになりたい』感想〜アイデンティティ獲得の攻略本と主体的な選択の余地に悩める幸運への感謝

「何者かになりたい」 と思ったことがなかった 「自分」に満足できないのは、なぜ? 〈承認欲求〉〈所属欲求〉〈SNS〉〈学校・会社〉〈恋愛・結婚〉〈地方・東京〉〈親子関係〉〈老い〉 アイデンティティに悩める私たちの人生、その傾向と対策。 「何者かに…

『ピーターラビット』感想〜「かわいい」にチャックがついたゴブリンスレイヤーと監視カメラの真実

映画『ピータラビット』レビュー ピーターは世界で一番幸せなウサギ。たくさんの仲間に囲まれ、画家のビアという心優しい大親友もいる。亡き両親のことを想うと寂しいけれど、ビアの存在がすべてを吹き飛ばしてくれる。ところがある日、大都会ロンドンから潔…

『#はてな村キャッキャウフフ』配信オフレポ〜はてな村民に伝わる採掘資源三禁忌の閉塞感と巻き込まれ事故顛末

はてな村キャッキャウフフに登壇 「はてな村が閉塞しつつある」というエントリが立て続けに書かれたことをきっかけに開催されるオンライン同窓会に呼ばれて参加することとなったのだけど、自分としてはダイアリー時代のことをあまり知らないし、ルノワールの…

飲み会にレジュメを準備していく話とはてなニュータウンに仕事かお金か愛を求めて移住しちゃってからの話

閉塞しつつあるはてな村の隣接地域の話 「はてな村が閉塞しつつある」というエントリが立て続けに書かれたことをきっかけに開催されるオンライン同窓会に呼ばれて参加することとなったのだけど、自分としてはダイアリー時代のことをあまり知らないし、ルノワ…

『心霊マスターテープ』感想〜「日本初の心霊ディレクター」を追う実在心霊ディレクター達のアベンジャーズ

『心霊マスターテープ』感想 ビデオカメラに偶然捉えられた幽霊と思われる映像や、不可思議な現象を追う「心霊ドキュメンタリー」は、世に多く出回りひとつのジャンルとしての地位を確立している。このジャンルが産声を上げた90年代後半よりも遥か前の80年代…

『大豆田とわ子と三人の元夫』感想〜期間限定の少女漫画と五次元空間に投影される永遠の後の日

『大豆田とわ子と三人の元夫』完走の感想 テレビを処分してから、テレビドラマから意識的に距離をおいていたのだけど、『花束みたいな恋をした』や『カルテット』など坂元裕二脚本についての盛り上がりを経て、『大豆田とわ子と三人の元夫』を全話観ることに…

『アルプススタンドのはしの方』感想〜「進研ゼミの漫画」のようにいかなかった送りバントの青春と腹から声を出す瞬間への羨望

アルプススタンドのはしの方 高校野球夏の甲子園大会一回戦。 夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめる冴えない4人。 夢破れた演劇部員・安田と田宮、遅れてやってきた元野球部・藤野、帰宅部の成績優秀女子・宮下。 安田と…

若い女性にアタックし続けるおじさんは価値観の任意スクロールと年齢の強制スクロールに挟まれたなれ果て

山寺宏一の歳の差婚に感じるザワザワ 山寺宏一が31歳年下で元THE ポッシボーの岡田ロビン翔子と結婚した事が話題になっていた。歳の差婚自体に思うことはあまりないのだけど、同じような年代の人との3回目の結婚ということにザワつきを感じている。 もちろん…

『ノマドランド』感想〜アメリカ開拓者の伝統を背負わされた現代の楢山節考のロマンと実像の余白

『ノマドランド』感想 企業の倒産とともに、長年住み慣れた企業城下町の住処を失った女性、ファーン。彼女の選択は、一台の車に亡き夫との思い出を詰め込んで、車上生活者、“現代のノマド(遊牧民)"として、過酷な季節労働の現場を渡り歩くことだった。 毎日…

磯部涼『令和元年のテロリズム』感想〜生まれなければ苦しみもない反出生主義を後押しする主義なき爆弾の連鎖

令和元年のテロリズム 改元直後、日本を震撼させた3つの事件の現場を『ルポ 川崎』の著者が追う。 まったく素顔が見えない川崎の無差別殺人犯・岩崎隆一。元農水事務次官の長男・熊澤英一郎は父親に殺されるべきだったのか? 戦後で最も多くの死者が出た京…

『ジョーズ』感想〜4K HDR で観返すジョーズは現代のコロナ行政映画だった!?

『ジョーズ』を 4K HDR Dolby ATOMS で観る アカデミー賞受賞監督スティーヴン・スピルバーグ演出の『JAWS/ジョーズ』は、当時サスペンス映画に驚異的な新風を吹き込み、映画鑑賞そのものを変えてしまったと大きな話題を呼んだ作品だ。平和な海水浴場のアミ…

「社会適応という名の悪」は死ぬまでの成長を期待する新たな姥捨山に殉じる罪悪感なのではないか

詐欺症候群と「鍛えることを女々しい」と思う世界観 非モテからの脱却に成功した私だったが、私の中には違和感が残った。「脱オタ」を達成するために私は興味も無いファッションや流行の遊びを勉強して大金をつぎ込み、夜の盛り場に繰り出しては女性に声をか…

三秋縋『恋する寄生虫』感想〜自由意志に介入する物理除去が可能な呪詛と祝福の二虫一体

三秋縋『恋する寄生虫』 「ねえ、高坂さんは、こんな風に考えたことはない? 自分はこのまま、誰と愛し合うこともなく死んでいくんじゃないか。自分が死んだとき、涙を流してくれる人間は一人もいないんじゃないか」 失業中の青年・高坂賢吾と不登校の少女・…

独り暮らしの自炊で食費を節約できているのは同じ食材を食べつづけられる特殊能力者だからかもしれない

今週のお題「おうち時間2021」 まあそんなことしなくても普通の生鮮食料品店で1週間の予算をちゃんと決め、献立を考えて買い物し、冷凍庫をうまく使えば安くあがるのは間違いない。ただし、そんなことができる人間はそんなに多くはないに違いない。人類の大…