太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

原尚美『マンガでわかる管理会計』〜真のコスパ厨として不確実性を排した儲けの意思決定力を身に付ける

マンガでわかる管理会計 はじめてでもわかる儲けのからくり

マンガでわかる管理会計

 『マンガでわかる管理会計:はじめてでもわかる儲けのからくり』を税理士の原尚美先生から献本いたただいた。

経営をよくする管理会計のしくみと基本が、マンガで楽しくわかる!
本書は、父親の経営する和菓子会社の経営改善のために、会計事務所の百合先生に管理会計を学びながら奮闘する女子高生・桃ちゃんの成長を通して、管理会計を楽しく学ぶ入門書です。
管理会計とは、会社のありのままの状態を把握し、収益やコストの構造を分析することで、会社の「未来の見通し」を立てる際の拠り所となる会計です。

 管理会計は自分の中でも大きなテーマだ。業務改善系の施策を推進するにあたっても、まずは管理会計に落としこんで影響を定量化してモニタリングする仕組みとセットにしていく事が不可欠となる。「お気持ち」だけで人を動かすのは難しいし、それだけで決断しろと迫るのもナンセンスな感情論になりがちだ。

管理会計は先を見据えるための共通言語

 新型コロナウィルスによる自粛要請は長期化している。需要と供給の安定性を保てた状態での細やかな意思決定プロセスが求められるフェイズとは異なり、本書にも描かれている通りに新工場の操業率低下や不良在庫処分などの深刻な問題に対する抜本的な意思決定が求められる時代だ。

 「抜本的な意思決定」というとジャストアイディア(良さそうな思いつき)をブレインストーミングで出して云々と思いがちだが、不確実性に対する試行錯誤をしていけるのは、むしろ安定した収益が既にある程度見込めていると余剰資金があるからである。

 五里霧中の状況で唯一変わらないもの、経営者に取っての道標となるもの、それは会計です。間違いを犯しても、もはや私たちにやり直す体力は残っていません。数字に基づいた科学的な経営を行わなければ、生き残ることはできないのです。

 安定収益が難しくなってからの起死回生の策は命取りとなる訳で、思いつきを思いつきのままにしないためにも定量判断が前提となる。管理会計定量判断を行うための共通言語であり、主に課税や証券のために厳密なルールを課す財務会計とは異なる柔軟な手法が取られる。

 管理会計の数値は業種や会社ごとに自由に比較的自由に取り決める事ができる。そのため管理会計の数値自体に公共的な目的があるのではなく、その数字を判断材料にして未来の意思決定やオペレーションを続ける結果として会社としての価値を高める目的がある。

管理会計は先を見据えるための共通言語

 例えば原価80円の饅頭10万個を販売価格60円でフェア出品して欲しいという依頼が描かれていて、直感的に考えればそんなのやめてくれって思ってしまうけれども、前提によって答えは変わってくる。

 既に加工済みで在庫が残ってしまっているのであれば賞味期限前に売り切るべきだというのはなんとなく分かるけれど、製作前であっても原価の本当の比率を見ていく必要がある。工業製品の財務会計上の「原価」は材料費と労務費と経費(工場の減価償却費など)で成立している。

 正社員の給料や新工場の減価償却費などは出品をしてもしなくてもかかる「埋没原価」である。既に確定した過去を前提としながらも正しい意思決定をするためには、材料費がいくらで、固定費がいくらなのかを明確化して損益分岐点を試算する必要があり、そのためのツールセットが本書では描かれている。

それしか見えない原価厨とそれも選択肢にする管理会計

 ここまでで、思い出したのは「原価厨」だ。

これ、割と意味不明ですよね。けど実際いるんですよ、「元々はそんなにお金かかってないでしょ?」って人。
凄く精巧な切り絵について、「紙代だけなら数円でしょ?」とか言う人。
演奏者に対して、「ピアノは置いてあるんだし、来て弾くだけでしょ?」とか言う人。 

 いわゆる原価厨の特徴として、材料費(変動費)のみに注目するというのが挙げられる。前述の通り、原価は材料費と労務費と経費で成立しているし、クリエーターの労務費にはそれまでの訓練や教育コストが折り込まれるの通例だ。それを他人から強制さえると困るが、自身の意思決定においては話が変わってくる。

 ピカソが30秒で描いた絵に高値をつけて「いや、30秒じゃない。40年と30秒かかってるんだよ」と言ったなどという都市伝説?があるが、今回の管理会計手法から見れば40年は埋没原価であるから敢えて原価厨の立場をとって30秒で量産する選択肢もある。乱発するとブランド(のれん)の毀損というややこしい問題が出てくるけれど。

意識的にスコープを切り替えられる真のコスパ厨になる

 重要なのは意識的にスコープを切り替えて既に決まってしまった現在から未来への意思決定をしていく真のコスパ厨になる事だ。管理会計は最初から正しい選択をしていくためにも使えるが、本当に大切なのは持続的かつ定量的な改善サイクルによって「結果として正解にする」ことである。

 それが抜本的な変更を伴うものであっても、ちょっとした改善の羅列であっても効果が定量的に測定可能になっていなければ感情的な達成感と経営状況の乖離が生まれていく。

 本書は実際の会社でも起こりそうなケーススタディを元に様々な手法をあげており、自分の仕事にも使いたくなってくる。数字が多いけれどもひとつひとつは算数レベルではあるので、漫画でイメージの大枠を掴んでしまえるのがありがたい。

不確実性と向き合うためにも真の不確実性を明確にする

 繰り返しになるが飛び道具的なアイディアだけで全てを改善する事はできない。不確実な箇所については勘や創造性に頼るのも前提になってくるが数字を計算すれば分かるところまで勘の範疇にしていたら精度が著しく下がってしまう。

 それは誰かの曖昧な要求からスタートし、それが具体的で明確な何かに変わっていく過程が実現で、その過程のすべてがエンジニアリングという行為です。  つまり、「曖昧さ」を減らし、「具体性・明確さ」を増やす行為が「エンジニアリングとは何か」という答えでもあるのです。

 不確実性を減らすための過程こそがエンジニアリングである。経営と生産を結びつけて確実に不確実性を減らしていく共通言語として管理会計があり、それでも残ってしまう課題のためにこそ創造性が必要となる。真の不確実性と向き合うためにも管理会計で科学的に解消できる不確実性を明確にしておく必要があるのだ。