太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

書評

ヴァレリー『テスト氏』〜カイエの結晶を集合的無意識から採掘すること

テスト氏 「テスト」と聞くと、どうにも『テスト氏 (福武文庫)』を思い出す。教養コンプレックスだったときに読んだ本であり、僕が毎日書く事に改めてこだわり始めたのは、ヴァレリーの「カイエ」の影響もある。 ヴァレリーは23歳から死ぬまで公表を前提とし…

かっぴー『左ききのエレン』〜アートと商品で揺れ動く共感の物語

かっぴー『左ききのエレン』 朝倉光一は、大手広告代理店に勤める駆け出しのデザイナー。いつか有名になることを夢みてがむしゃらに働く毎日だった……。もがき苦しむ日常の中で、高校時代に出会った天才・エレンのことを思い出していた。 原作版 左ききのエレ…

平直行『U.W.F.外伝』〜刃牙のモデルとなった黎明期のプロ総合格闘家自伝

プロレスの敵だった総合格闘 中学生の頃から毎週のようにワールドプロレスリングやGAORAのプロレス放送を観ていたし、ここ最近でもKindle Unlimitedで『週刊プロレス』や『有田と週刊プロレスと』が欠かせない。 No.001 語り継がれる伝説の虎!初代タイガー…

ふろむだ『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』〜一貫して偏った、説得力のあるアジテーションで勘違いさせる力

運と実力だけじゃない 本書は『分裂勘違い君劇場 by ふろむだ』を運営する ふろむだ ( id:fromdusktildawn ) 氏の著書。分裂勘違い君劇場といえば、新会社員になりたての頃に散々読み漁った記憶があるブログ。よちよちだった自分の考え方に良くも悪くも影響…

秦本幸弥『かいぜん!~異世界コンサル奮闘記~』〜なろう系ビジネスライトノベルは課題の前提が違うから面白い

かいぜん! ここ最近はITエンジニアというよりも、ビジネスサイドに移って商品設計や業務プロセス改善などを担うことが多かったのだけど、財務会計やマーケティングなどの専門知識が付け焼き刃すぎて苦労することが多かった。 ビジネス書というと創業者の自…

借金玉『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』〜ヒロイックな発達障害の制約と誓約の嘘

発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術 “カドカワさん「そういうわけで、やる?期間は半年。その間にすんごいPV達成したら書籍化。PVが残念な数字だったら残念賞。やる?」” 8月が終わるけどどうなったんだろう / “プレ公開と経緯説明、そ…

地主恵亮『ひとりぼっちを全力で楽しむ』〜自分の代わりに全力で蕩尽してもらう背徳感のスパイス

ひとりぼっちを全力で楽しむ 友だちがいない、恋人がいない、一緒にお昼を食べる人がいない、仕事がつらい、お金がない、結婚できない、家がない、Facebookにいいね! がつかない… そんなことで悩んでいませんか? 孤独は否定するものではなく、むしろ積極的に…

本多静六『私の財産告白』〜明治時代のブロガーが明かす貯蓄と投資の極意

本多静六『私の財産告白』 金融リテラシーを高めるための名著として名高い本多静六の『私の財産告白 』を読んだ。著者は慶応二年(1866年)に生まれた明治時代の林学博士で、日比谷公園や明治神宮の設計・改良に関わる一方で、大学教員による収入を基礎にし…

『全巻一冊 北斗の拳』は自費出版や全集復刊の新しい形として面白い

全巻一冊 北斗の拳の電子書籍 9月13日にオープンした「Kickstarter」日本語版のローンチプロジェクトとして『全巻一冊 北斗の拳』が公開された。300万円のプロジェクトに対してすでに1000万以上が集まっており、その注目度の高さがうかがえる。 作品への没入…

もしカイジのハンチョウのように帝愛地下帝国から1日外出したら

『1日外出録ハンチョウ』が面白い 賭博破戒録カイジの地下帝国編スピンオフ漫画である『1日外出録ハンチョウ』が面白い。地下帝国と呼ばれる強制労働施設においてイカサマチンチロリン、給料前借り金融、嗜好品の物販等を取り仕切る大槻班長がその資金で1日…

舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』感想〜愛は祈りであり、祈りは起こってしまった過去を治すための自己療養の試み

Love Love Love You I Love You 舞城王太郎を語るのは難しい。京極夏彦、清涼院流水、森博嗣、浦賀和宏、高田崇史、西尾維新、佐藤友哉、etc、etc。講談社発刊の文芸雑誌『メフィスト』に綺羅星のごとく登場してきたスター作家達をみると学生時代を思い出し…

とよ田みのる『FLIP-FLAP』〜僕らのゲーセンクイーンと僕らのピンボール

FLIP-FLAP 街の小さなゲームセンターからシカゴまで広がるピンボールを巡るラブコメディ。 『普通』の深町くんが踏み込んだ本気の世界とは? FLIP-FLAP (FUNUKE LABEL)作者:とよ田みのるAmazon 『FLIP-FLAP (FUNUKE LABEL)』はピンボールを描いた漫画である…

浦賀和宏『記憶の果て』〜厳密に似ている同士の社会的劣性遺伝子

記憶の果てにあるものとは? 父が自殺した。突然の死を受け入れられない安藤直樹は、父の部屋にある真っ黒で不気味なパソコンを立ち上げる。ディスプレイに現れた「裕子」と名乗る女性と次第に心を通わせるようになる安藤。裕子の意識はプログラムなのか実体…

ハインライン『夏への扉』〜過去へのコントロール不可能性を超えて

[asin:B00CZ840H4:image:large] 『夏への扉』を読んだ 『夏への扉』は1957年にロバート・A・ハインラインによって書かれたSF小説の古典であり、日本での人気が非常に高い。その一方で、評論家や海外での評価はそれほど高くないというギャップがある事までは…

林明輝『ラーメン食いてぇ!』〜こころのラーメンへの執着が絶望を癒やす

[asin:B00YTTN3XY:image:large] ラーメン食いてぇ! 妻を亡くし、店を畳む決意をしたラーメン店店主・紅。ウイグルでのテレビ取材中、事故に遭い、一人荒野を彷徨う羽目になった料理研究家・赤星。心ない同級生の噂が元で、自殺を考える女子高生・茉莉絵。一…

女子目線で語る『すべてはモテるためである』感想戦~恋の規制緩和で自分の中のモモレンジャーを圧倒的成長させたい

女子目線で語る『すべてはモテるためである』感想戦 昨日は『すべてはモテるためである』の読書会。男4人・女2人で3時間の侃々諤々。事前に書いた感想文を含めて、なかなか濃い話ができたように思います。お疲れ様でした。僕なりの感想を述べさせていただき…

二村ヒトシ『すべてはモテるためである』〜この恋愛に【あたし】と【あなた】はどこにいる?

いまになって「モテ」本を読むことについて Skype読書会にあわせて『すべてはモテるためである (文庫ぎんが堂)』を読みました。いまだに独身。それなりの過程はあれど「いま/ここ」には何も残っていません。そろそろ夫婦関係の秘訣や子育て日記を書いていて…

小山ゆうじろう『とんかつDJアゲ太郎』〜アガる音楽でMIX<交じり>あうトンカツとクラブカルチャー

とんかつDJアゲ太郎 ライブハウスにはそれなりに行くのだけど、クラブには行った事がなくて中で何が行われているのか未だによく分かっていない。だから「DJはとんかつに似てる」と言われても「はぁ……?」と思うだけであった。認識解像度を下げれば天下一品だ…

村上春樹がKindleで電子書籍を読んでいることに椅子から転げ落ちる

村上さんのところ 生きている人間は少しづつ変わっていきますが、過去に公開された文章は永続的に残っていきます。もう本人の手からは離れて古くなった教義に固執していた自分を知ることが本当に良かったのかの判断はつきかねますが、村上春樹がランニング中…

「ランニング中のiPod」に衝撃を受けたハルキストは「村上主義者」への転向を迫られているのです

村上さんのところ 新潮社による期間限定サイトが公開されて、村上春樹に質問ができるようになっている。過去にも同様の取り組みはあったのだけど、もう質問できるような機会は用意されないものと考えていたので嬉しい。僕から送ったいくつかの質問への返信は…

石黒正数『外天楼』感想〜エロ本、宇宙刑事、ロボット、クローンの全てが1巻完結で回収されていく気持ちよさ

外天楼で会いましょう 『外天楼』は『ネムルバカ』や『それでも街は回ってる』の作者による日常系ミステリー短編集……に見せかけた壮大なサーガである。書評を書くには、どうしてもある程度のネタバレを含んでしまうし、1巻完結なので未読の方にはぜひ読んで…

西加奈子『通天閣』〜工場とスナックが交わる通天閣でこれまで言えなかった全員分の「好きや!」を叫ぶ

『通天閣』で交わるふたつの生活 『サラバ』で第152回直木三十五賞を受賞した西加奈子氏が、2006年に発表した小説である。「底辺」とか「場末」という言葉似合う工場勤務のおっさんと、スナック勤務の女性の生活が交互に描かれながら、大阪の「通天閣」を交…

九井諒子『ダンジョン飯』〜「動く鎧」って食べられるの!?

ダンジョン飯を召し上がれ 『ダンジョン飯 1巻 (HARTA COMIX)』は九井諒子の新刊で、ウィザードリィのようなダンジョンファンタジー世界において、金と食料を落としてしまった主人公パーティが、現地調達した魔物を料理しながら冒険を続ける物語である。当初…

岡本欣也『「売り言葉」と「買い言葉」心を動かすコピーの発想』〜それを伝えられた人はどうしたくなる?

コピーライターは「翻訳業」 本書は「日本郵政」や「キリン」などの広告を手がけた事で知られるコピーライターの岡本欣也氏による「コピー」の解説書である。そもそも「コピー」とは広告内で使われる言葉であり、見出しにあたる「キャッチコピー」、補足説明…

西村賢太『二度はゆけぬ町の地図』感想〜『苦役列車』の前日譚となる私小説において「自虐的な道化師」として描かれる貫多の日乗

二度はゆけぬ町の地図 本書は、中卒で日雇労働をしながら、酒と女に蕩尽してきた筆者の「私小説」である。西村賢太について、僕としては『苦役列車 (新潮文庫)』の芥川賞受賞が話題として消費されつつあり、作者が甚だ不満だという映画化をされてから知る事…

野村美月『"文学少女"と死にたがりの道化』感想〜太宰にシンクロする青春のほろ苦さ

文学少女と「場」が引き起こすループ 「文学少女」シリーズとは文学を物理的に食べて生きる「文学少女」と、覆面の天才小説家だった過去を持つ主人公が織りなす学園青春ミステリーである。その一作目である本書では、太宰治の『人間失格』を軸に、今まさに起…

村上春樹『カンガルー日和』〜未(ひつじ)を巡る冒険が始まる朝に100%の女の子と出会うことについて

カンガルー日和 「ねぇ、年越しに読む本は何がいい?」 そんな台詞から始まった会話は「未年にちなんで羊が出てくる作品が尊い」という結論になった。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』や『羊をめぐる冒険』を想起したが、同じ羊男ならばと『カンガル…

吉田太一『孤立死 あなたは大丈夫ですか?』〜2035年からの終活戦線、「弱いつながり」だけでは異常アリ

「孤立死」の問題 テレビのドキュメンタリーにおいては「孤独死」という言葉がピックアップされる事が多いけれど、日本政府においては「孤立死」という言葉になる事も多いのだそうだ。確かに「孤立死」という言葉の方が、親族や気にしてくれる人が周りにいた…

水曜どうでしょうディレクター対談『腹を割って話した』で語られた「自分にとっての温泉を掘る」話

温泉を掘り出していく 『水曜どうでしょう』は、良くも悪くも藤村Dと嬉野Dがいなければできない番組であろう。ローカルテレビ局のディレクターでありながら、ナレーションやカメラも担当しながら、大泉洋や鈴井貴之というタレントと掛け合う「出演者」として…

村上春樹『風の歌を聴け』感想〜「風の歌」とは何か?

『風の歌を聴け』再々読 『風の歌を聴け』を15年ぶりに再読したのはちょうど1年前。決してハルキストとは言えなかった僕は「はしか」に掛かったかのように読み直していって、パロディらしきものも書いたり、『風の歌を聴け』を題材にした読書会を実施したり…