38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果
cakesの大人気連載、待望の書籍化!
幻冬舎+テレビ東京+note「#コミックエッセイ大賞」第1回入賞作品もうすぐ40歳、再婚する気まるでなし。
イケメン沼にハマったチアキの実録恋愛ストーリー
マッチングアプリには複雑な思いがある。折に触れて使ってこなかったわけでもないが、メッセージを続けて会えることになってもドタキャンされたり、食事をして解散。稀に次に繋がっても互いに恋愛感情の前段階から疎遠になっていく。帰り道にはいつも『サンサーラ』が流れていた。
それは自分だから仕方無いというか、人によって過程も成果も大きく変わってしまうのがマッチングアプリというものだろう。本書は、38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみたら年下イケメンと次々とマッチして性的関係になるが、満たされなかった事実をもとにしたフィクションだ。
結婚相談所やマッチングアプリの実録漫画といえば、イケてない人々や心を弄ぶだけの人々に会っていくうちに「普通」の人に心を落ち着けるのがよくある展開なのだけど、バツイチで今のところは結婚願望がない年下イケメン好きの美熟女がマッチングアプリを使うことで「普通」とは全く異なる展開となる。
グッドルッキングは全てを癒す
ここは現代日本の話なの? が最初の感想。マッチングアプリを始めて1週間で7人に会ってワンナイト1回。相手は20代前半の若いイケメンばかり。これが一般的な38歳バツイチ独身男だったら質の悪い異世界転生モノとしか思えないが一部の女性にとっては「普通」のことなのかもしれない。
漫画上の描写はもちろんであるが、著者が銀座のホステスを経ていたり、週刊誌に載ったドミノマスクで目元を隠した写真を見る限り、綺麗かつ独特の色気や気遣いを感じさせる女性なのだろう。身も蓋もない話ではあるが。
若いイケメン男性が年上で包容力のある女性に求めるのは性欲9割、母性1割を都合よく提供してくれることなのだろうけれど、貢いだり、宗教やマルチ商法に勧誘されたりもなく、一時的にでも満たされていることにやっぱり異世界転生っぽさを感じる。
異世界転生の擬似体験でじぶんの居場所はないと知る
ダメだ、ダメだダメだ
アプリで知り合う年下イケメンなんて適当な距離感保ちつつ
愛とか恋とか期待しちゃいけないって学んだはずなのに…
会って好きになられて性的な関係になっても相手のことを信じていないし、家にも頻繁にくるようになったイケメンモデルに対しても自己完結して終わらせてしまう。「好きになったらしんどくなる」という感情を抱きつつもイケメンと遊びたいし性的な関係を結びたいアンビバレントな感情。
それもそれで深刻な問題だとは分かるが、一般的な38歳バツイチ独身男だったら会おうと約束していた当日に相手の父親が危篤になったとドタキャンされたり、豪奢な食事とタクシー代を負担するライトパパ活を持ちかけられるだけだ。俺が死んだパパに!? 本書でも身近な人の本当の死が関わってくるけれど。
環世界の違いを知って生きる
僕自身はバツイチでもないが、ここに出てくる若いイケメンからは大きく劣後している。もちろん女性全員が異世界を生きているわけもないだろうが、38歳バツイチ女子を相手にそんな勝ち目のないイケメンバトルロイヤルが開催されていたのかというルールの違いを知る。モブ扱いされて当然である。
全ての生物は特有の知覚世界をもって生きている。マダニにはマダニ特有の知覚があるが、これは人間Aと人間Bの差異にも起こりえる。認知の違い、思考の違い、行動の違い。種ごとに大体は共通的になるはずの環世界は先天的な障害や気質の違いや後天的な教育やコミュニケーションが欠けることで異化される可能性もある。
マッチングアプリを題材にするとしても失敗するか苦労の末に付き合った話の方がウケるし、それらが「普通」として流通しがちだ。しかしながら、あまり流通しない話としてイケメン達と爛れながらも苦悩する環世界もある。本書が実録であることを前提にすると男女の違いに限らず、あまりに異なる「普通」を持った異世界を知ることのできる機会となった。