太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

猪熊ことり『婚活バトルフィールド37』感想〜婚活ランキングが発生し得ない残り三割同士の地獄さ行ぐんだで

婚活バトルフィールド37 1巻【電子特典付き】 (バンチコミックス)

婚活バトルフィールド37

大手派遣社員・赤木ユカは、そこそこの美人。男に困ったことはなく、ゆるゆると生きてきたが、気がつけば37才。「ここいらで結婚しておくか」と婚活を始めるも、そこで待ち受けていたのは、想像を超えた戦いで――。幸せの形が多様化した現代で、それでも結婚という幸福を追い求める女の奮闘記、開戦の第1巻!!

 そこそこの美人で要求水準の高い元彼が忘れられない37歳女子が、婚活歴8年の同僚と罵り合いながら様々な婚活サービスを受けては爆死していく漫画。それだけだと勘違い女に溜飲を下げるような方向性を想像しがちだけど、バトルフィールドに参戦する男も女も絶妙に間の抜けたあるあるが同居するギャグ漫画となっている。

 そうでもない人に上から目線で値踏みされる嫌な感じだったり、オタク婚活で作品論の水掛け論が盛り上がり、よしんば論破したところでじゃあ付き合おうとはならない徒労感だったりを戯画化しつつ、既婚者、マザコン、ヤリモクなどなどが登場。最後に元彼沼を示唆して1巻目は終わるのだけど、Twitterで良く聞くやつ!

参戦する時点で残り三割同士のバトルフィールド

 作品に出てくる婚活サービスはお見合いパーティ、オタク婚活、料理合コン、アプリ婚活、正統派お見合いなどなど。それらはルックスといくつかのスペックで相手を見極めてこちらを振り向かせるバトルフィールドであるが、そこに参戦する時点で普通からはやや外れた存在でもある。

一方、夫婦について夫妻が知り合ったきっかけをみると、「友人・兄弟姉妹を通じて」、「職場や仕事で」がそれぞれ30.9%、28.1%とおよそ3割で、次いで「学校で」が11.7%となっている。これら上位3つは、順番は異なるものの未婚者と共通で、未婚者と同様全体の約7割を占めている。

 成婚する人との出会いは友人・兄弟姉妹の紹介、職場や仕事関係、学校関連で約七割という調査結果が出ており、残りの三割同士で好意から入らないのに結婚を意識しなきゃいけないのはなかなかの地獄。それでいて上から目線の人々もリアルにいるのが面白い。サイゼリヤ・デート問題もそういうところに発生するし、そもそも結婚相手を探しているのに相手を打ち負かすという概念が壊れているのだけど。

婚活ランキングは原理的に発生し得ない

 主人公のユカはそのバトルフィールド内でも最高峰の男性を狙って、それ以外の雑魚に塩対応して爆死する初心者プレイを続けているのだけど、徐々に爆死を繰り返すか卑屈な難易度調整によって安パイを狙おうとして、だからこそ断られることに傷ついたり、一回めの食事でなんか違うと思う地獄に行くことを迫られるのかが気になる。

 婚活歴8年の同僚はベテランぶって蘊蓄や攻略法を言うが、つまり8年間結婚できていない『HUNTER×HUNTER』でいうところのトンパのようなものだ。結婚できていない婚活のベテランのアドバイスほど役に立たないものはないのだけど、何となく真理をついているような気分になりつつ、いやそれはとなる。

 少年漫画脳なので、『テラ・フォーマーズ』のように婚活ランキングとか考えたくもなるけど、ランキング1位の時点でとっくに結婚しているし、そもそもバトルフィールドに出てこない構造的矛盾がある。それは地獄のようでいて、同じバトルフィードに行かざるを得ない他者へのエンパシーに気づく部分であったりもする。

逆に面白いと相対化して立ち向かう

 僕自身は色々あってから婚活らしきものもしてみたものの何の成果も得られず、ゆっくりしているうちにコロナ禍になって誰かに会う機会自体が激減して、独りでいることに疑問を感じなくなってしまったのだけど、このままで良いのかと思うときもある。

そうではなくて、性別や年齢に拘らずともセルフケアとしての美容は自分で自分の機嫌をとって少しだけ心地よく過ごすための手段なのだ。『だから私はメイクする』でも語られる通りに、女性だって決して他人のためだけにスキンケアやメイクをしている訳ではないが、だからこそ男性だってしても良い。

 スキンケアもボディメイクも別にモテるためのものだけではないけれど、何らかの「大会」がないと張り合いがないのも事実だ。なので婚活バトルフィールドに発生する嫌な感じこそが逆に面白いポイントだと相対化して婚活バトルフィールドに立ち向かうのも良いのかもしれない。ショートコント:婚活。