太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

法的な記録には残らないが記憶には残る固有名詞的ミームに侵食されるLLM型シン人類

シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成 (NewsPicksパブリッシング)

記憶には残るミームによる侵食

 『令和の虎』において、元NHKから国民を守る党の立花孝志がプレゼンをしていたのだが、その中で出てきた話が興味深かった。要するに言えば「政治家女子48党」を立ち上げると同時に、たまたま同じ名称の「政治家女子48株式会社」が設立されてNHKが映らないスマートTVを販売すると、政党としての政見放送や政治活動から連想的な宣伝ができるという構造だ。法務省総務省としても法的な問題がないので、黙認せざるを得ない状況になっている。

 都知事選に出馬すれば政見放送に出演できてポスターが東京全域に貼られる。かなりの部分まで自由に放送されているし、直接的な商品名を言わなければそれを連想させるような広告もできるだろう。個人で稼ぐYoutuberなり所属組織などの情報は黙っていても広報される。

 以前からYoutuberの個人名や会社や商品に対する連想的な広告が使われていくだろうとは思っていたが、「たまたま同じ名前の株式会社を設立する」という単純な方法は、実現可能性すら調べていなかったのが正直なところだ。「48」も当然、AKB48からきているだろうが、偶然と主張することもできる。

 また、直近の統一地方選挙では、たまたま知事と同姓同名になった別県に住む無所属新人が当選してしまう事態となった。

平井氏は過去に詐欺罪で服役経験があると明らかにし「逮捕歴があってもやり直せるのを示したい」と述べた。出所後に名前を「伸知」から「伸治」に変更したという。

 つまり、「たまたま同じ名前の会社を設立」したり、「たまたま現職知事と同姓同名に改名して出馬」することはできてしまうのだ。これに限らず、選挙法や著作権法や商標法などの法律的な問題を巧みに回避しながら、固定文字列から想起される記憶の結合からイメージ連想してしまうミームを意識的にハックしようとする人々が増えてきているのではないかと感じている。

「シン・○○」自体は商標が取られていない

 例えば「シン・○○」というサービス名や商品名や書籍名などは多々挙げられるが、説明するまでもなく「シン」という呼称は庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』や『シン・エヴァンゲリオン』などからの影響を受けている。

 しかしながら、「シン・○○」自体の商標は取られていないと本人の口から言われており、商標登録データベースにも登録されていない。実際問題として、多種多様な商品名にシンの名称が広まっており、何の関係もないのにコラボをしているかのような錯覚をしてしまう人も出てくる。もちろん、ちゃんと調べれば経緯が分かることが多いのだが、アテンション・エコノミーにおいては、ちょっとした記憶の連想による引っかかりこそが大切なのだ。

記憶には残る固有名詞的ミームに侵食されるLLM型シン人類

 インターネットがもたらす情報の波は、私たちの生活に多大な影響を与えている。特に、近年のソーシャルメディアの普及により、情報は瞬く間に拡散し、人々の意識に刻まれていくミームとなる。ミームとは、インターネット上で広まる文化的なアイデアや行動のパターンであり、模倣されてウイルスのように人々の間で伝播していくものだが、選挙や商標に関係するが制限されにくい「固有名詞」自体も文字列として模倣されて伝播していくミームなのではないか。

 これまでだって「タレント議員が強い」なんて話はあったけれども、あくまでそれはタレント総体の実存しての知名度であった。しかしながら、インターネットネイティブ世代は幼少期から文字列による情報通信の波にさらされて育ってきており、そこで得た情報の連想が従来の知識や教育よりも優先され、彼らの購買行動や政治的な決断にまで深く関与しやすい状況にある。

 ところで、ChatGPTにおいて相手からの「返信」のように見えるものは「completions(補完)」と呼ばれる。LLM(大規模言語モデル)では文章の次に来る単語を予測して答えているが、文字列で記憶し、文字列で検索し、文字列で会話する機会の多いシン人類にはこのような補完機能が発達しやすく、それがLLMの有用性との相補完性になっているのではないかと妄想している。

 「ひろゆき」という文字列を見ただけで「それはあなたの感想ですね」とあの顔や声まで補完される。でも、「ひろゆき」自体には何の法的な制限もかけられないから異なる実存の「ひろゆき」も存在し得る。そして、連呼された文字列が表す本当の意味をググったところでSEOアフィリエイトによって巧妙に捻じ曲げられ、陰謀論との接続さえ危ぶまれる。いかがでしたか。

 結局のところで、摂取した文字列から自動想起されてしまう連想イメージをハルシネーション(幻覚)と自覚しながら信頼できる一次情報にあたるしかないが、それすらも意識的にハックされうる現代社会で全てを相手にするのは疲れてしまうわけで、なんとも気持ち悪い時代を生きていると感じたのでした。