pixivでのイラスト非公開化の波
ランカークラスの絵師がpixivの全作品を非公開にする報告をしているのを今日だけで10数件は見た。
— 篠房六郎 マンガワンにて「姫様はおあずけです」新連載 (@sino6) 2023年5月6日
これからのpixivはAIが支え続けてくれる事だろう。明らかにそう言う選択をした訳だしな
これが驚き屋の言っていたゲームエンドなのだろうが、意外な事に、勝ち誇っている人を何処にも見かけない
pixivでのイラスト非公開化の動きが加速している。すでに特定のイラストレーターの絵柄をピンポイントで学習させ、よく似た絵柄のアダルト画像を生成してFANBOXや電子書籍などで荒稼ぎするケースが出てきており、「学習されたくない」という意図を示すためのボイコット活動であろう。
詳細な表現は変更となる場合がございますが、作品制作過程に関わらず下記のような悪質な行為は利用を制限させていただく予定です。
- 運営者、他のユーザー、その他の第三者になりすます行為、またはそのように誤認されるおそれがあると当社が判断する行為
- 特定のクリエイターの画風・作風を模倣した作品発表を、反復・継続して行うことで、当該のクリエイターの利益を不当に害すると当社が判断する行為
- 特定のクリエイターの画風・作風を模倣した作品発表を幇助するツール等を配布・販売することで、当該のクリエイターの利益を不当に害すると当社が判断する行為
pixivは上記のガイドラインを出していたり、スクレイピングの禁止を宣言しているものの、技術的な対策は難しく、パチンコ屋の三店方式のように別の売買プラットフォームが使われてマネタイズされる可能性もある。そもそも改正後の著作権法第30条の4では、技術開発等の目的で著作物を利用することが認められており、今のところ違法ではないから公開したままであればロビー活動ぐらいしか有効な方法がなさそうだ。
選択的非公開の必要性と機械損失コントロール
ああそうか。イラストレーターをあおって「pixivから絵を削除しよう」というムーブメントを流行らせると、その絵が最初に投稿されたアカウントや時刻の証拠が無くなるからAI絵師側にしたら短期的には有利になるのか。
— ǝunsʇo ıɯnɟɐsɐɯ / メタバース炎上対策専門家 (@otsune) 2023年5月7日
今から削除や非公開をしたところで聡い連中は既にデータセット自体をダウンロードしているから独占的に稼ぎやすくなるし、オリジナル側の情報が失われて状況をさらに悪化させることになる。何にせよ、これからはインターネットに公開することが無邪気にできない時代になってしまったのだろう。
学習されたくないデータは気軽にインターネットに公開できず、認可者や購買者にのみ学習元になる権利も暗黙的に渡すか、モデルを狂わすノイズなどの何らかのプロテクトによって機会損失ならぬ機械損失を意図的に作り出す必要が出てくる。それで思い出したのがテキストマイニングやファインチューンを考えた時のKindleコピーガードの不便さとオライリーのDRMフリーEPUBの便利さだ。
基本的には Amazon Kindle のロックインから離れられるとは思えないけれど、解析対象としての電子書籍所有という観点の場合は EPUB 形式のがありがたい。そもそも編集作業はデジタルで行なっているのが当たり前になってきているのに電子テキストデータが隠されているのは残念な状況。
購入した電子書籍がコピーできない不便は仕方がないと受け入れるが、要約したり、文章構造を可視化したり、チャットで返答できるプログラムのインプットにできない機械損失は受け入れがたいと思っている自分もいる。これは、まさしく購買者には学習元にする権利も渡して欲しいという要望であるが、権利者側が明示的にコントロールする必要が出てくるのだろう。
ミームを残すためにAIに食べられたい
ここまでは学習元にならないためのコントロール権の話をしていたけれども、僕自身は割と積極的にAIのための餌になりたいという欲望がある。
「自分が何者か」という問題にさっさとカタをつけて他者や後進への目線を持てる人に再配置されるべきという話と、他者や後進への目線を持つことで「自分が何者か」という問題が相対的に重要ではなくなっていくのはニワトリ卵的な話ではある。それができないから自意識過剰の「非モテ」という自己規定があったのだろう。我々は非モテだから故に物理的な遺伝子は残しにくい。でも、だからこそミーム(意味的な遺伝子)を残すことが適者生存戦略であった。
そもそもブログを再開したのだって、自分にとって安心安全かつ自由にAIに食べさせて変形させるための餌を作りたいからだ。かつて新城カズマは『われら銀河をググるべきや―テキスト化される世界の読み方 (ハヤカワ新書juice)』で我々はGoogleの広告枠を耕すためのテキスト小作人であると書いていたが、ブロブのようなAI様に自分の文章を食べてもらってミームの断片を残すのは「お前で末代!」へのカウンターとなる。
草を食べさせて育てた牛や羊等の家畜を我々が食べ、更にその我々を天人様に召し上がっていただき、天寿を全うされた天人様の骸を我々は賜り糧とするわけだ
ここで重要となるのはAI様に食べてもらう文章を厳選することで、やはり選択的非公開による機械損失をコントロールすることに意義がある。非公開アカウントのTwitterと公開ブログ運用はそこに通じている。誇大妄想はさておいてAIに食べてもらうことを意識した絶望ミーム工場は、Googleの広告枠を耕すよりかは少しだけ希望がある。