太陽がまぶしかったから

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『心霊マスターテープ』感想〜「日本初の心霊ディレクター」を追う実在心霊ディレクター達のアベンジャーズ

「心霊考証のすゝめ」

『心霊マスターテープ』感想

ビデオカメラに偶然捉えられた幽霊と思われる映像や、不可思議な現象を追う「心霊ドキュメンタリー」は、世に多く出回りひとつのジャンルとしての地位を確立している。このジャンルが産声を上げた90年代後半よりも遥か前の80年代に、日本初の「心霊ドキュメンタリー」が存在していた!?

その日本初の心霊投稿ビデオ「知られざる心霊世界」を追う寺内康太郎とアシスタントの涼本奈緒のもとに集った心霊ディレクターや関係者たちの身に起こる不可解な出来事を描く。 https://www.entermeitele.com/horror/shinrei_mastertape.html

 『怪談のシーハナ聞かせてよ。』や『超ムーの世界R』などのホラー番組に定評があるエンタメ〜テレで放映されたオリジナル連続ドラマ。実在の心霊ディレクター達が出演しているし、真実しか扱っていないはずの心霊ドキュメンタリーを題材にしているものの「このドラマはフィクションです」と明記されている。

 これは挑戦だったとも思うのだけど、実在人物を取り扱う以上は「別にニュースになってないじゃん」がネタバレになったり、展開に制約が入ることを嫌ったのであろう。実際、24分x6回=144分がダレずに一気に観れてしまう絶妙な塩梅となっている。

 現在のところ、 Amazon Prime Video でお金を払えば無料で視聴可能。

『ほんとにあった!呪いのビデオ』当事者達のドラマ

 「心霊ドキュメンタリー」の明確な定義は難しいが、心霊現象を映したとされる映像のオムニバスだけではなく、それを解き明かすための現地調査やインタビューなどのドキュメンタリー要素を含んだルポタージュを指す。

 そのディクレションを行う心霊ディレクターのパイオニアとして今や『アヒルと鴨のコインロッカー』『残穢』などの映画監督でメジャーとなった中村義洋を『日本初の心霊ディレクターを追え』という番組として取材していたら「僕は元祖ではない」と言われるところから物語が始まる。

 中村義洋が1999年から手がけていたのは『ほんとにあった!呪いのビデオ』であり、本作にも心霊ディレクターとして出演している福田洋平、岩澤宏樹、菊池宣秀なども参加しているし、本作の監督・脚本である寺内康太郎もシリーズ監督を務めていた。定型句である「おわかりいただけただろうか」は中村義洋自身のナレーションである。

 そんな同窓会のような雰囲気と当事者だからこそのリアルな心霊ドキュメンタリーあるあるが散りばめられつつ、1980年代にあったとされる「日本初の心霊ドキュメンタリー」の現物(=マスターテープ)とそのディレクターの足取りを追っていくうちに謎のカメラ男の怪異に襲われていく。

撮る側が撮られる側になる逆転現象と恐怖への探求

 1980年代にはビデオデッキが一般に普及して様々なオリジナルビデオシリーズが作られていた。『デスファイル』や『ギニーピッグ』などが本物のスナッフフィルム?というテイで流通しているし、テレビでは心霊番組や超能力番組などがブームであったから今日のような心霊ドキュメンタリー作品が絶対にありえないオーパーツとは言い切れない。

 ちなみに『ギニーピッグ3 戦慄! 死なない男』の監督・脚本は『孤独のグルメ』の久住昌之だったりもして、後の有名作家達がこのような作品に関わっていたというのは心霊ドキュメンタリーも、日活ロマンポルノも、エロアニメもだ。ホラーとエロのフレーワークが日本の現代カルチャーに強く影響を及ぼしてきたという側面がある。

 コレクターが「じゃマール」で手に入れたという一部だけがコピーされた「日本初の心霊ドキュメンタリー」を検証していくうちに、「日本初の心霊ディレクター」の意図や足取りが分かっていくのはまさに心霊ドキュメンタリー的であり、心霊ビデオの検証から発生する怪異は『リング』を彷彿とさせる。

 怪異側も謎のカメラ男という「撮る側」であることに捻りが効いている。本来的には怪異を追う側の心霊ディレクター達が謎のカメラ男に撮られていることに気付いたり、カメラ男が取材ビデオに映っていることに気づく逆転現象。「日本初の心霊ディレクター」の輪郭が取材によって明らかになっていく流れと、怪異としか思えない謎のカメラ男。本物の恐怖を撮ってやりたいと思う心霊ディレクターのサガがぶつかり合う。

実在心霊ディレクターアベンジャーズのあるある

 「死」や「呪い」などが入りがちで新しいタイトルはもう苦しい。番組側の都合で勝手に決められる女性アシスタント。わざとらしい悲鳴演技。二人分の新幹線代の予算がないからと深夜バスでの移動。ひたすら退屈な車での張り込み時間。廃墟に足を踏み入れる際に気にする法律などなど、心霊ディレクターなら実際に体験してきたのであろう嫌な感じも描かれる。

 その一方で、ホモソーシャルになりがちな心霊ディレクターの現場に女性アシスタントが入ることで生まれる新しい道筋や信頼関係などもある。昨今の心霊ドキュメンタリーはニコニコ生放送Youtubeチャンネルとひもづいて同じメンツで長く続くことも増えてきており、女性アシスタントというよりバディになっていく空気も取り込まれているのであろう。

 先の『ほんとにあった!呪いのビデオ』から派生した心霊ディレクター達や『Not Found』の古賀・杉本ペア、『心霊×カルト×アウトロー』の谷口猛なども参戦してさながら心霊ディレクターアベンジャーズのような様相になってくる。

 それぞれの作品は未見だったのだけど、『心霊マスターテープ』内でのやりとりが面白くて思わず本編も観てしまったという点においてラーメン博のような効果もある。ほとんどの作品が Amazon Prime Video でお金を払えば無料という環境もありがたい。

心霊ドキュメンタリーの手法が活用された手触りのリアルさ

 もちろんフェイクドキュメンタリーとしての脚本や演出が前提にあるが、手持ちカメラやスマートフォンで撮られた映像や実在の心霊ディレクターやアシスタント達によるアドリブや言い間違えや失敗などもそのまま映されているかのようなざらつき感が奇妙なリアルさを生んでいる。

 この漫画が面白いと思うポイントは、怪奇現場で酒を呑むという不謹慎さや精神的高揚による酒の美味さよりも実話怪談の当事者や現場との細やかな対話にある。証言通りの再現漫画だけが描かれても他人事になりがちだが、「そこを気にする?」という部分まで当事者から聞き出したり、現場から感じ取ることで、その実在性と解像度を高めている。

 近接ジャンルである実話怪談の面白さを考えるほどに作為の余地が入り込みにくいディテールの描写こそが重要になると感じていたのだけど、心霊ドキュメンタリーやその技法が活用されたドラマも計画的偶発性を狙ったアドリブ演出が多いことが奇妙な面白さや恐怖につながっているのではないかと改めて感じた。いや心霊ドキュメンタリー全部が真実なのだけど。

 続編である『心霊マスターテープ2』にはモキュメンタリーと明記されている『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』の俳優コンビが『 限界戦慄ファイル ヤバすぎ!』の実在ディレクター?として登場したり、各種SNSや心霊 Youtuber が活用されて虚実の皮膜をさらに裏返す展開となっている。こちらについては、また別途感想を書きたい。