太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

小野哲『生成 AI アプリ開発大全』感想 〜Dify によるLLMワークフロー構築の「おきまり」を通して体験する既知への安堵と未知への感動

生成AIアプリ開発大全――Difyの探求と実践活用

Dify の探求と実践活用

本書は DIfy の活用方法をアプリを作りながらさまざまな視点から解説します。例を挙げるとチャットボット、RAG、エージェント、ワークフロー、ノードの活用、各種ツールや API の使い方、チャットフローの作り方まで詳しくフルカラーで説明します。最終的には Docker で完全クローズドなシステムを構築するまでを解説します。Dify は作りたいアプリをノーコード・ローコードで実現できるのです。その威力と影響力に刮目するでしょう。生成 AI の可能性に IT エンジニアは興奮が止まらないかもしれません。

Dify といえば、ノーコードで LLM や RAG が取り扱えるツールとして名前や活用例は知っていたものの、"次世代 Excel マクロ" になる気がしていて、あまりちゃんと触ってこなかった経緯がある。雰囲気で書かれたであろうツールを使ってみても「動いてはいるが」という感想になってしまうことがほとんどで、後に引き継いで保守をさせられる人に同情したりもした。

その一方で、非エンジニアの人々も面白がって使っている状況は革命的でもあり、ドメイン知識があるメンバー自身で「欲しかったもの」を試行錯誤しながら言語化(= DSL による As a Code)できる状況は今後の DX プロジェクトの変化を予感させるものでもあった。

本書は、そんな Dify を活用した生成 AI アプリ開発の現場で「何から手を付ければいいのか」「どこでつまずきやすいのか」について順を追ってチュートリアルを進行し、「おきまり」のコースを進んでいくうちに俯瞰図と要素技術の基礎知識を手にいれられる構成となっている。

Dify を通して体験する既知への安堵と未知への感動

要素技術の基礎知識の例としては、LLM の推論パラメータ(top_k、top_p、temperature など)の意味や調整方法、RAG(Retrieval-Augmented Generation)による外部データ連携やチャンク設計、API アクセスの設計や認証など。ワークフロー構築の中に出てくる部品として基礎を学び直すことで、見落としがちなポイントや現場の落とし穴にも気づかされる。

僕自身としては、趣味で AI Agent っぽいものを Python で書いてきた経験もあって、大抵の内容は概念レベルで知っていることではあったのだけど、改めて何がどう影響するのかについて点検すると曖昧な理解になっていたことに気付かされた。

Dify で作ったアプリは、Web API として公開できます。つまり、既存のシステムと Dify を簡単に連携できます。...エンジニア用語でいうと、これを BaaS(Backend as a Service)って呼びます。

また 「Dify 内における LLM、RAG、API 連携の柔軟性」については既知であったが、Dify 自体の API サーバー専用デプロイ方式による UI レス構成であったり、Web に直接埋め込めるチャットボットコンポーネントの提供など、「既存資産から Dify との連携の柔軟性」については未知であった。このように既知への安堵と未知への感動がサンドイッチ構成になることで、自分自身の知識がストレッチしていく実感を得やすい。

Docker によるローカル起動とローカル LLM の可能性

「社内の機密データは外部に出したくない」「API の課金を気にせず使いたい」...実はこれには「ローカル LLM」という解決策があります。

未知の部分として特に大きかったのは Docker によるローカル起動やローカル LLM の活用である。ちょうど 『Function Calling 対応の Qwen3-30B-A3B を VSCode Extension から自動操作してローカル完結の軽量LLMコードレビュー環境を構築 - 太陽がまぶしかったから』 がマイブームになっており、ローカル LLM の活用や Obisidian 等で集めたローカルのナレッジ群がコストやセキュリティ、柔軟性の観点から大きな武器となることを感じている。

Dify のローカル利用について、本書としては最後の方に出てくるが、最初からローカル起動できる選択肢も提示しておいた方が Dify クラウドとの契約も必要なくて親切だろう。

なお、意見に対する対応やメジャーバージョンアップによる変化等について上記のサポート対応が更新されていっている。

「課題駆動型開発」思想の現場適用

そして、その課題が解決したかどうかを検証し、改善する。このプロセス全体を設計するのが、私たち人間の仕事です。これを私は「課題駆動型開発」と勝手に命名しています。

Dify に限らない VIBE Coding 等で基礎知識を問わずに目に見えて「動きはするもの」が作れるようになると、技術先行で妄想的な提案ではなく、現実の業務において解決したい課題を起点に HOW をブラッシュアップできる状況になっていく。AI 導入の本質は「今できること」のボトムアップではなく「解決すべき課題」を明確化して逆算することにある。現場での PoC 止まりを脱し、実効性ある AI 活用を目指す方向性に未来を感じる。

AI 導入には運用や UX 面での課題も残る。API の応答速度や外部連携の設計、幻覚(ハルシネーション)対策、ナレッジの継続的なアップデートなど、実践知が求められる場面は多い。本書はそうした現場感を踏まえ、今後の AI 活用による DX プロジェクトの展望や、AI を「便利」から「楽しい・創発的」な存在へと昇華させるヒントを与えてくれる。