ノルマは「標準」なのか「最低条件」なのか
「ノルマ」という言葉は「営業ノルマ」のように「必達目標」とか「課業」のような意味合いに使われる事が多いのだけど、英語では「norm」と書いて「標準」「基準」「規範」などを意味する。形容詞だと「normal」である。「標準」なのだから、それよりも低い状態も一定までは許容されるはずなのだけど、いつの間にか絶対に超えるべき「最低条件」に転じている。
日本における「ノルマ」はロシア語の「norma」を経由しており、ロシアの強制労働における「標準作業量」が実態的には「最低作業量」として運用されてきたことから、シベリア抑留者が第二次大戦後にそのニュアンスを紐付けて使い始めたということらしい。
「リストラ」の語源も「合理化」であるし、こういうカタカナ語やルー語しゃべりはなんだろうと感じる事もある。とはいえ「サボる」や「ハイカラ」は大正時代から使われているし「最近の日本語は〜」と言うのも難しい。
「平均値以下」は約半数
標準的なばらつきを持った集団で平均値を取れば平均値よりも低い人が約半数でるのに、その人達が「最低」を満たしていないという意味に取られてしまう事がある。「普通そうだろ?」という押し付けもそうだ。
営業ノルマも「最低条件」の意味で使われているし、マナーとか気遣いとかについても感じの良い所作を元にして「それが当たり前」の基準が切り上げられていくと脱落者が増えていく。特に小売店や飲食業は「感情労働」の側面が強いわけで、そこへの負荷は実働への計上が難しい暗黙的な負担となっている。
だからなんだという事もないのだけど、「標準」や「規範」を当然達成すべき「最低条件」として捉えてしまうと、実態から乖離して辛くなりやすいと思った。ちなみに、ソビエト政権下ではノルマに対するトゥフター(ごまかし)が日常化して、ソ連崩壊の原因になったと言われている。できもしないノルマ報告のために偽の指標を追ったり、誤魔化しプレゼンを作るようになると立て直すためのリソースすら消費されちゃうよね。