太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

Youtubeの再生前に流れる「長すぎる動画広告」に見入ってしまった

走れメロス (角川文庫)

つい見入ってしまった長すぎる動画広告

 Youtubeの再生前に流れる動画広告には基本的にイラッとさせられる事が多い。数秒でスキップ出来るものも多いのだけど、ネガティブな反応と共に消してしまうので、広告効果としては難しいと感じていた。そんななかでも、ついつい見入ってしまった動画広告がある。なんと7分間。

 唐突に始まるメロスのミュージカル。メロスはちょっと阿部サダヲっぽいし、台詞はコント風。スマートフォンを片手に走り続けていると、母親からLINEが来たり、元カノからSNSでメッセージが来たり。「スマートフォンの枠」を大道具で表現する演出にニヤリ。

ここまで来たら最後まで観てやろうと思わせる

 これは『関東の求人情報 | アルバイト・バイトの求人情報ならイーアイデム』という「地元アルバイト」検索サイトの広告なのだけど、それが分かるのは最後の最後。「スマホを片手に走れメロス」というメッセージだけを受け取りながら、どんな展開になるんだろうと最後まで観てしまった。

 太宰治の『走れメロス』は『文豪メッセンジャー』みたいな形でパロディになっているし、アフィリエイトだけで書かれたりもしている。基本的にはしょうもないんだけど、今度はどんなパロディとして表現されつつ、どんな商材のコンバージョンに繋げていくのかが気になってしまう。

明瞭すぎないからこそ成立するコミュニケーション

 一見して、何についての広告であるとすぐには分からせない手法についてはテレビCMでも使われてきたのだけど、どうしたって30秒以内に分かるように駆け足になっていくし、番組本編との境界性が明確なので「見なくてOK」と思わせてしまう。

 ここでまず重要になってくるのが「7分間」というシークバーによる違和感や好奇心の醸成である。Youtubeを流しているときは基本的に暇なのだから、本編動画で笑おうが、広告によって笑おうが構わないという意識がある。

 それでも完璧に正しく伝達されてしまえば、伝達すべきことが失くなって、文明は終わる。だから「本当の事」を隠しながら書いて、それでいて「本当の事」はここにあるよというメタメッセージを伝えようとする。

 「完璧に正しく伝達されないから正確に知ろうとする」という状態が成立するためには、先だって「本当の事を知りたい」という欲望を抱かせるためのメタコミュニケーションに成功している必要もあって、スキップされるかもしれない「最初の数秒間」でフックを上手く形成できるかがインターネット動画広告では特に重要になってくるのだろう。

 そういう意味では、動画投稿サイトで再生前に流れる広告に対してTVコマーシャルの手法を流用するとブランドイメージに逆効果なんじゃないかと個人的には思っているんだけど、どうなんだろうか。