うなぎ串への憧れ
鰻の絶滅危惧が叫ばれて値段も高騰しているため、鰻重を食べる機会も殆んどなくなってしまったのだけど、好きか嫌いかで言えば最も好きな食べ物のひとつである事には変わりがない。
中でも、うなぎ串とお新香だけで飲む事に憧れがある。うなぎ串とは蒲焼に使わないうなぎの部位を使ったおつまみ。身の部分の切れ端を串に巻いた倶利伽羅や頭を焼いた半助。ひれ巻きも肝焼きもレバーも美味いのだけど、専門で出している店は殆んどなくなってしまった。
あくまで鰻丼や鰻重を焼いている時間を過ごす酒肴として嗜む程度に出てくるぐらいで、うなぎ串だけを存分に頼むのはハードルが高い。
残りの部位はどこに消えた?
写真はまだそこまで騒がれていなかった時期に三島へ鰻を食べに行った時のもの。山椒が緑。お新香も優勝。
正直に告白するとこの時は鰻丼も食べてしまったのだけど、本当は串だけを沢山食べたい。鰻屋がある限りは蒲焼に使えない部位も出てくるはずで、どこに消えてしまったのだろうと思う事がある。
業の深さという調味料
余った部位だから業が軽減されるという事もないのだけど、業が深いからこその美味みを感じてしまう側面もある。二郎もレバ刺しもストロングゼロも完全に安全だったらそこまで渇望しないであろう。
昨今の食べ物はフェアトレードやギルトフリーである事が重要視されてきているが故に、ギルティな瞬間を求めてしまう反動がある。普段は節制するほどに「自分へのご褒美」を許可してしまうのが人間の業なのだろう。また数年は、もしかしたら二度と食べられないうなぎ串への憧れがある。

- 作者:ラズウェル細木
- 発売日: 2012/11/05
- メディア: Kindle版