技術系即売会に参加して感じる物理デバイス x AI の魅力
先日開催された技術書展 18 と技研 AI マーケット 2 のハシゴ参加をしてきた。同じ日の同じ時間帯にそれなりに遠い場所で開催される状況に戸惑いつつも、双方とも気になる内容だったので仕方がない。ここ数年は電子書籍での読書がほとんどで、紙の本を買うこと自体が少なくなっていたが、技術系の展示即売会に参加することで、物理的なデバイスへの魅力を再発見できた。
これは、出展物の変化があったという話ではなく自分自身の興味関心の変化を反映している。端的に言えば、ときめきセンサーがソフトウェアからハードウェアへとシフトしていることを実感したのだ。
技術書展 18 で買った本紹介
技術書展 18 では様々な書籍を購入したが、特に印象に残ったのは以下の書籍である。
サーマルプリンタを使ってダウンロードカードを印刷するのにあたっての課題認識、プリンタ選定、専用アプリを作るまでの記録。個人識別されたダウンロードカードをオンデマンドで生成して印刷して渡せるというのは、QR 決済や LINE 登録など対面の販売業務をデジタルに再接続してもらうために重要なインターフェイスになっているが、それを「業務用」ではなく個人として作ってしまおうというのが技術同人誌の醍醐味である。
M5Stack の Module-LLM を利用した手のひらサイズの LLM デバイスで画像認識やモデル変換などを行うための解説書。ローカル LLM の小型デバイスでの実装は、将来的なポータブル AI デバイスの可能性を感じさせて面白い。
本日の展示物を紹介します
— aNo研 (@anoken2017) 2025年6月1日
手のひらサイズのローカル LLMマシンと、手のひらサイズのYOLOカメラです。
Module-LLMで動いています。#技術書典18 #aNo研 pic.twitter.com/FHBqdomPdw
実際に動くデバイスも展示されており、触らせてもらえたのも嬉しい。大きいのはインターフェイス部分だけで Module-LLM 本体は非常に小さく、それこそサーマルプリンタに組み込んだりすることも可能だろう。
Raspberry Pi を使ったインタラクティブなサイネージを作るための入門書。こちらも実際に動くサイネージが展示されており、触ることができた。『阿部由延『AITuberを作ってみたら生成AIプログラミングがよくわかった件』感想〜楽しい趣味としてのプログラミングとクリエイティビティの総合格闘技 - 太陽がまぶしかったから』でも紹介したAI Tuber とデジタルサイネージは非常に相性が良いと感じており、「召喚技術」としての可能性を秘めている。
ブログや Obsidian で使われている Markdown 記法から EPUB および Kindle ダイレクトパブリッシング用のコードを自動生成するためのツールを自前で作るための解説書。AI エージェントが生成するインターフェイスのひとつとして「書籍」という形態もあると感じている。実際に出版するかはさておき、DeepReasearch を GPT-4.5 で書籍の体裁にした Markdown 文書を適切な組版で Kindle Paperwhite で読んだり、印刷できるのは便利だろう。まさにオンデマンド出版だ。
その他、MCP 実践本やマイコン系の同人誌もいくつか購入した。これまでの技術書展では、ソフトウェアやプログラミングに関する書籍が中心だったが、今回はハードウェアや物理デバイスに関する書籍や展示に特に心を惹かれている自分がいた。また紙と電子版で価格差があるなら電子版だけあれば十分かなと思うこともあったが、今回はすんなりと紙版も購入するようにした。反面、コピー本や装丁が安っぽい書籍への魅力をあまり感じられなくなっている自分もいて、モノ自体にときめきを感じてしまう自分にちょっと驚いた。
技研 AI マーケット 2 で気になったもの
技研 AI マーケット 2 では、AI に関する様々な展示が行われていたが、特に物理デバイスとの接続に関心を持つ自分にとって興味深いものがいくつかあった。
入り口すぐに shi3z 氏が出展されており、メモリ 512GB の MacStudio with DeepSeek が展示されながらの会話ができた。実は『ネットワークゲームデザイナーズメソッド』や『電脳空間カウボーイズ』からの約 20 年間追いかけている人との 1 on 1 にコミュ障を発動。大袈裟に言えばソロになってから秒で剥がされたりしない石川梨華握手会と同じ状況だ。
新刊の『2025 年上半期 AI 最新動向レポート』は「3 万 6 千円の講座の半年分だから、本来は 21 万円くらいのはずだが」となかなかの価格設定であったが、この機会を逃すと後悔すると購入。その場でサインもいただき、人間という最強の物理デバイスを感じる。本人も説明している通り、講座をサマリーした論考とともに大量の出典リンクがあり、フレームを書籍で作った上で個別の展開はいくらでもデジタルですれば良いというスタイルも同人誌のあり方として面白い。
その他、Suno で作った自分にパーソナライズした歌をカセットテープに録音してくれたり、カメラの画像認識で目覚ましを鳴らしつつあまりに反応がないと家族に連絡する AI エージェントの展示など、物理デバイスと AI エージェントの接続に関する実験的な試みが多く見られた。AI を前提としつつもデジタルとアナログの境界を揺るがして物理世界に介入していくことに皆の興味も移ってきていると感じた。
オンデマンド生成の物理化にときめく
したがって、生成 AI はオンデマンド技術史の最終到達点として、需要と供給の時間的ギャップを極小化し、ユーザーの意図に同期する形で知識生成を“callable”にする環境を提供している。加えて、3D プリンタやドローンを例にあげるまでもなく、もはやオンデマンドに生成できるオブジェクトはデジタルだけに限らない。つまり世界構造そのものがローグライク的になっている前提で長期的戦略と短期的戦術を考える時代になっているのかもしれない。
以上までで紹介した展示物や書籍は、そのまま「オンデマンド生成の物理化」という自分自身のテーマとも合致している。ソフトウェアについては AI を活用したり、Web サイトや一般書籍を読めば十分に開発できるようになってきたが、あえて物理的なデバイスを作ったり、制御するための情報は不足しており、同人誌にこそ最前線がある。そもそもハードウェア制御は個人で出来るという発想にまで至らない部分も多く、実際に動くの展示物を見ることが大きな刺激になった。
NVIDIA が次に狙うのは AI ロボティクスであり、そのための技術もどんどん進歩しているが、自分とは乖離しすぎてしまったので、もう少し安くて小さくてかわいい物理デバイスに AI を活用しながら、個人の趣味としての開発をしていけることに興味が向いている。そんなわけで、技術書展や技研 AI マーケットのようなイベントに参加して改めて物理デバイス x AI へのときめきを再発見できた。自分で書いた技術書を印刷して展示するのも楽しそう。