太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

林明輝『ラーメン食いてぇ!』〜こころのラーメンへの執着が絶望を癒やす

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ラーメン食いてぇ!

妻を亡くし、店を畳む決意をしたラーメン店店主・紅。ウイグルでのテレビ取材中、事故に遭い、一人荒野を彷徨う羽目になった料理研究家・赤星。心ない同級生の噂が元で、自殺を考える女子高生・茉莉絵。一杯のラーメンへの思いが彼らを変えていく。

 それぞれの人生に絶望した3人が、一杯のラーメンへの執着をキッカケに回り始める。ウイグルで荒野を彷徨いながら「思い残すことはない」と諦めかけた時に出てくる渇望。

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 妻を亡くした事によって「清蘭のラーメン」を再現ができなくなった店主は店を畳んで絶望に暮れるなか、こころない噂に絶望して自殺未遂を起こした孫娘に呼び出される。昏睡状態にあった孫娘は店主の作ったラーメンのスープに救われる。

ソウルフードとしてのラーメン

あのとき 私の中で何かが目を醒ましたんだ……
なにもかもが嫌になった私の中で……

 これをキッカケに孫娘がラーメン作りの修行を始め、それぞれの過去や現在の問題と向き合っていくなかで、冒頭に提示される「自分が食べたいという想いを維持し続けられる特異な食欲」や「郷愁を感じる塩」などの鍵が回収されていく。修行シーンは『ラーメンガール』を思い起こさせる。

 店主でさえ諦めかけていた、あの一杯のラーメンを再現する執着の一方で、料理研究家ウイグル遊牧民に助けられ、あの一杯を食べたいという執着でハードな旅路を乗り越えていく。心に刻まれた「ラーメン食いてぇ!」という思いや、いざ目の前にすると「残りの人生に対する意欲を失いたくない」と逡巡してしまう感覚。

ラーメンのように心がじんわりと温かくなる

同作は2014年に講談社コミックプラスにて配信。今年2月にWEBマンガサイト「モアイ」にて公開されるやいなやTwitterFacebookなどのSNSを中心に口コミが広がり、瞬く間に100万PVを突破した注目作だ。なお単行本には単行本未収録となっていた読み切り「宇宙人かよ!」「傘がない!!」も収められている。

 今回購入するまで全然知らなかったのだけど、ウェブで話題になるのも分かる。上下巻で読み切り2篇も入っており、それぞれにも独特の感動がある。

 映画化もされている。テンポよく要素が回収されていくし、とにかく透き通った塩ラーメンが美味しそうで『ラーメン食いてぇ!』となる。コミカルなタイトルに反して、じんわり心が温かくなる。