太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

『地獄先生ぬ〜べ〜NEO』〜12年後の僕らは「ぜんぶ悪霊のせい」とは言えなくなったけれど

地獄先生ぬ〜べ〜NEO 1 地獄先生ぬ~べ~NEO (ジャンプコミックスDIGITAL)

地獄先生ぬ~べ~再び

 『地獄先生ぬ~べ~』と言えば僕自身のバイブルでもあった。「鬼の手」を持つ小学校教師ぬ~べ~の圧倒的な強さや優しさを軸にしながらも、妖怪、都市伝説、時事ネタ、ホビー、ラブコメ、お色気などの要素がないまぜになった1話完結の学園コメディに心をわし掴みにされていたのである。連載開始から既に20年も経っている事に驚く。

 連載終了後も『霊媒師いずな 1 (ジャンプコミックス デラックス)』というスピンオフ作品が発表されたり、最近になってドラマ化もされている。そんな、ぬ~べ~リバイバルの中でスタートした正式な続編が『地獄先生ぬ~べ~NEO 1 (ジャンプコミックス)』である。12年後の童守町を舞台に新任教師として母校に戻ってくる当時は小学生だったヒロインの稲葉郷子や、現代の教育問題を絡めて展開されるぬ~べ~節に胸アツ。

劇画ぬ~べ~

 約10年後ともなれば『藤子・F・不二雄短編集 全宇宙のサラリーマン達へ!―劇画・オバQ (My First Big)』のような展開もある。当時は目新しかったり、楽しかった事も「そういうのはいいから」となってしまうのも時代の流れ。

 理想に燃えていた郷子も学級崩壊に心が折れて辞表を出そうとしたり、ぬ~べ~の心霊ネタも「子供だましの人気取りだ」とそっぽを向かれてしまう。以下のような教育問題が1話完結のテーマになっており、単に牧歌的なリバイバルではない。新しい生徒たちも色々な問題を抱えている。

 これらの原因について直接的には「悪霊のせい」とはしないで、あくまで周りで起こった心霊事件を通じて、真の問題に対峙しはじめるという展開になっているのが味わい深い。「ネグレクトをしていたのは悪霊のせいなのだから、悪霊を倒せば解決」としないのは、大人になった読者の目線も意識しているのだろう。

12年後の僕らの問題と都市伝説豊作の昨今

 その一方で「禁忌鬼ごっこ」という形で、2006年に発祥した都市伝説である「ひとりかくれんぼ」を輸入してリファインしており、そういうのを待っていたし、12年たってさらに成長した美樹ちゃんのお色気も健在。当時の生徒たちにも12年経ってちょっと気まずくなった人間関係や、定職に付けない悩みがあって、徐々に出てくる過去のキャラクター達も楽しみである。

 都市伝説についても八尺様とか、クネクネなどの新しいモチーフに困らない気がする。当時はネタを高速に消費しすぎていた感じもあったけれど、20年も経てば色々と変わってくる。もちろん、ワーキングプア問題を「全部悪霊のせい」と解決してはいけないのだけど、何がどう問題を引き起こしていたのかというのをシュガーコーティングするために「悪霊」という変数も求められているのだろう。妖怪や悪霊に頼ってきたのは江戸時代から変わらない。

20年後の読者として共に成長すること

 読者としての僕は連載開始から20年、連載終了してからでも約15年経っているわけで、あまり歳が変わらなかった登場人物達が、12年後であってなおも新卒だという事に少し切なさを感じたりもする。ぬ~べ~は37歳だけど見た目が全く変わらないという謎設定。言葉の貫禄は増しているけれど。

 生徒が悪霊に襲われた時に言う「俺の生徒に手を出すなっ!!」のパロディで「俺の生徒に手は出せんっ!!」があったりして、当時はタブーだった教師と生徒のラブコメ展開も12年経つと普通にありえてしまう問題。雪女のゆきめさんとの結婚エンドだったので、深く進むこともないだろうけれど、ちゃんと歳を取る漫画はなにか胸に刺さるものがある。

 同じく最近リバイバルした『天地無用!』も本編の5年後ぐらいを舞台に主人公が教育実習生として赴任する展開になっていて、そういうパターンが増えている感覚がある。僕も漫画のキャラクターも歳を取って、青年期とはまた違う悩みを抱える。「いつまでも終わらない文化祭」から少しだけ時計の針を進めていくというのも時代の流れなのかもしれない。