不満は未来への原動力ではあるが
良くも悪くも、あまり不満を抱かないことに対して危機感不足を指摘されることがある。現在の自分に不満を抱いたところでどうなるものでもないという諦観や折り合いがついてしまっているため、やはり危機感を抱くべきかと思い直すこともある。守るべきものが少ないまま進んでいく人生は、ぬるま湯のように心地が良い。
ゼネラル・モーターズの重役が広告業者の全国大会で、「広告の目的はできるだけ多くの人に、いま持っている物に不満を抱かせることだ」と講演したという話も残っています。
広告に限らず、現代社会は現在への不満を抱かせるための物事で溢れかえっている。不満を抱くからこそ、それを解決するための事物が金や運動量になっていく。不満は未来への原動力ではあるが、「現在」は燃料として消費され続け、やがて死に至る。
三種の計画的廃品化作業
計画的に「今持っている物に不満を抱かせる」ための手法は「計画的廃品化」と呼ばれる。計画的廃品化とは大量生産・大量消費を維持するために商品を計画的に廃品化させて次の購買欲求を発生させるためのプロセスである。
日本においては古くから「ソニータイマー」などといった電化製品の耐用年数が都市伝説的に語られることが多いが、『成長から成熟へ ――さよなら経済大国 (集英社新書)』によれば計画的廃品化には3種の形態があるという。
- 機能の廃品化……より良い機能を持った後発商品による廃品化
- 品質の廃品化……消耗や故障による廃品化
- 欲望の廃品化……機能や品質に問題がなくても不要と感じることによる廃品化
計画的廃品化作業から降りるという計画的廃品化作業
現代において、最も有効なのは欲望の廃品化である。現在の価値観や状況に不満を感じさせることで既存の事物を廃品化させ、代わりの事物を欲しくさせる。大部分のデザイン変更は機能や見栄えの改良ではなく、既存製品を廃品化させるために行われるという。それでなくても「流行遅れ」「普通じゃない」「そうしなきゃ損」「◯◯はいいぞ」などといったプレゼンテーションが生活者から自発的になされていく。
イチローは「変わらなきゃも変わらなきゃ」と日産のCMで言っていた。価値観を変化させる方法を変化させることも計画的廃品化作業に過ぎないのだが、その大前提にあった「現在に不満を抱いて廃品化したら次が欲しくなる」というメカニズムを無邪気に信じるのが難しくなってしまったのかもしれない。現状追認バイアス。
現在の生活が廃品化されたら「次」は残っていないか、余計に悪くなりそうな予感。それを払拭できないことこそが、自身の抱いている最大の不満点なのかもしれないけれど、外形的には不足しているはずの現状に満足しながら家畜の安寧に微睡む。(意訳:婚活パーティへの参加をキャンセルした)