RTS インターフェースで複数エージェントを操作する時代
Another Claude Code Agent UI
— Shubham Saboo (@Saboo_Shubham_) 2026年1月18日
Run 9 Claude Code agents with the RTS interface.
I repeat: Multi-agent UI will be HUGEpic.twitter.com/piAPXikECV https://t.co/5h3lYCq7C4
このツイートを見て、ゼロ年代に提唱された「ゲームプレイワーキング」という概念が思い起こされてきた。ゲームプレイワーキングとは東浩紀らが「ギートステイト」というプロジェクトで提示した概念で、「労働がゲームそのものになる」という未来像である。
実のところ僕は現物の『ギートステイト・ハンドブック』を読んだことがないので的外れかもしれないが、この概念だけはずっと心の中に残っていた。2009年に放送された神山健治監督の『東のエデン』のクライマックスで、ニートたちがエデンシステムを通じてミサイル迎撃のアイデアを出し合い、日本を救う場面を見て断片されたゲームプレイの Map-Reduce で物事が成し遂げられる時代になっていくのだと思ったことを覚えている。グリッドコンピューティングによるタンパク質解析なんて話もあった。
あいつらは直列に繋いでやれば、結構なポテンシャルを発揮するんだ。
主人公・滝沢朗のこのセリフは、分散した知的リソースを並列に動かして一つの成果を出すという構造を端的に表している。「上がりを決め込んだおっさんたち」に対抗するニートたちの集合知。その構造が今、AI エージェントのオーケストレーションとして目の前に現れている。RTS(Real-Time Strategy)ゲームのようなインターフェースで、複数の Claude Code エージェントを同時に操作するという発想だ。これは単なる GUI の改善ではなく、AIコーディングエージェントとの関わり方を根本から変える可能性を秘めている。
Claude Code の作者である Boris Cherny 氏は、常時 10〜20 のエージェントを並列で動かしているという。シングルエージェントの時代から、マルチエージェントオーケストレーションの時代へ。その流れの中で、複数エージェントを効率的に管理するための UI が次々と登場している。
マルチエージェント管理ツールの百花繚乱
現在、Claude Code のマルチエージェント管理には複数のアプローチが存在する。
Claude Squad は tmux と git worktrees を組み合わせて、各エージェントに独立したワークスペースを提供する。TUI(Terminal User Interface)ベースで、単一のターミナルウィンドウから全インスタンスを管理できる。競合が発生しない設計になっており、変更内容を適用前にレビュー可能だ。
Claude Flow は「The leading agent orchestration platform for Claude」を標榜し、分散スウォームインテリジェンス、RAG 統合、MCP プロトコルネイティブサポートなど、エンタープライズグレードの機能を提供している。
Claude Code Agentrooms は @mentions によるタスクルーティングで、専門化されたエージェントに作業を振り分けるワークフローを実現する。これらのツールに共通するのは、人間をオーケストレーターとして位置づけ、複数のエージェントを指揮すると言うコンセプトである。
これはおもろい。
— ホーダチ-Hodatsu | LLM Researcher × AI Engineer (@hokazuya) 2026年1月18日
コーディングは、指示が中心になるという予測に対する一つのアプローチ。
コーディングエージェントを視覚化
[Vibe Craft]
・作業とまっちゃってるエージェント
・実は困ってるエージェント
・うろうろしてるエージェント
・働きすぎなエージェント… pic.twitter.com/fxhdn6tCD5
それ以外にもさまざまなツールがあり、ゲームのようなUIスキンを持つものも多い。個人的に AI Tuber について関心があるのも goho のような「もくもく会」を再現する作業集中支援アプリとしての機能を果たしながら、彼女達の成果物も読めるような仕組みを妄想していたからだったりもする。
ギートステイトとマスター・スレーブ関係の逆転
これらの UI はゲーミフィケーション(仕事にゲーム的要素をまぶす)というよりも、労働がゲームそのものになっていく方向性を示している。2045 年の近未来を舞台にした東浩紀らによる「ギートステイト」プロジェクトでは、「geet = 単純知的労働者 = 知的集約産業の労働者としてのゲーマー」という概念が提示されていた。難解な知的労働をゲーム形式に変換し、プレイヤーが労働していると意識しないまま価値を抽出する。。ギートステイトはディストピアとして設定されており、特権階級の「スーパーゲーマー」を除けば多くのギートは低所得者層であった。
しかし、AI エージェントの登場によって、このマスター・スレーブ関係は逆転しつつある。かつては人間がゲーム化された労働のスレーブとして価値を抽出される側だったが、今や人間がマスターとなり、AI エージェントというスレーブを指揮する側に立つ。RTS ゲームで複数のユニットを操作するように、複数のコーディングエージェントを操作して成果物を生み出す。ニート的気質、つまり家から出ずにゲームに没頭できる資質が、そのまま生産性に直結する時代が来ているのかもしれない。
異なるプロジェクト、異なるリポジトリ、異なるフォーマットと、それぞれが独立しているものであれば並列化の恩恵を受けて時間あたりの成果を最大化できる。1台のチューリングマシンを複雑化するのではなく、10 台のマシンを用意するということだ。
以前の記事でシーケンシャル実行の重要性を述べたが、それは単一の処理単位内での話であった。互いに疎なプロジェクト間であれば、並列化は大いに有効であり、RTS 的な UI はまさにその複数プロジェクト同時進行を可視化・管理するためのものである。(「異なるプロジェクト」という表現は粒度がやや荒すぎであり、「あまりコンフリクトしない範囲同士の関心ごとで並列した方が効率が良い」程度のニュアンスを意図していた)
ゲームとしてのRTS からフィジカル RTS へ
この RTS 化の流れは、ソフトウェア開発だけに留まらない。「1人のオペレーターによる遠隔操作型小型車の複数地域、合計10台同時の公道走行の道路使用許可を取得」といったニュースが示すように、フィジカルな世界でも同様の変化が起きている。遠隔操作による配送ロボット、ドローン群の制御、工場内の自律搬送車両など、複数の物理的なエージェントを一人のオペレーターが管理する「フィジカル RTS」の時代が近づいている。
リモートワークにおけるスクラムマスターの役割も、本質的には RTS のそれに近い。チケット(TODO)をバックログに積み、それを各メンバー(エージェント)に割り振り、進捗を監視し、障害を取り除く。人がチケットを消化しようが AI が消化しようが、オーケストレーションの構造は変わらない。todo.md はバックログであり、plan.md は戦略マップであり、エージェントはユニットである。
「待ち」から「指揮」へのゲームプレイワーキング
この構造を最も端的に示すのが、SNS 運用フリーランスのケースだろう。複数のクライアント企業の Twitter、Instagram、TikTok アカウントを同時に運用するフリーランサーを想像してほしい。従来であれば、各アカウントの投稿作成、コメント対応、分析レポート作成を一人でこなす必要があり、物理的な限界があった。しかし AI エージェントを活用すれば、一人のオペレーターが複数のエージェントに指示を出し、A社の投稿案作成、B社のコメント返信下書き、C社の週次レポート生成を並列で進められる。人間は各エージェントの出力をレビューし、クライアントのトーンに合っているか、炎上リスクはないかを確認して承認する。まさに RTS ゲームで複数の拠点を同時に管理するような働き方だ。
ソフトウェア開発の世界でも同様のことが起きているのではないか。複数社からの業務委託契約を結び、それぞれから1人月分の報酬を受け取りながら、AI エージェントを駆使して並列で開発を進める。A社のバグ修正をエージェントに任せている間に、B社の新機能設計をレビューし、C社のコードレビューコメントに対応する。従来の「1人月」という概念は、人間一人の労働時間を前提としていた。しかしマルチエージェント環境では、オーケストレーション能力次第で一人が複数人月分の成果を出せてしまう。労働の価値が「時間」から「指揮能力」へとシフトしつつある兆候なのかもしれない。
ギートステイトでは人間がゲーム化された労働に従事する「単純知的労働者」として描かれていたが、現実は逆方向に進んでいる。人間はオーケストレーターとなり、AI エージェントが「単純知的労働」を担う。スーパーゲーマーが、複数のエージェントを駆使して一人で複数人分の成果を出す時代。労働のマスター・スレーブ関係が反転したギートステイトとも言える。
マルチエージェント環境では、その実行の待ちの時間に別のエージェントへ指示を出せる。一つのエージェントがテストを実行している間に、別のエージェントにドキュメントを書かせ、また別のエージェントにリファクタリングを進めさせる。この並列性を効率的に管理するには、まさに RTS ゲームで培われた「複数ユニットの同時指揮」というスキルセットが活きてくる。逆に言えば格闘ゲームのようにイマーシブに反応を磨くタイプのゲーマーにはしんどい時代なのかもしれない。
そんなことを考えながら『ギートステイト・ハンドブック』を今から買おうとしたら、怪しいサイトで8,000円前後が提示される状況だった。駿河屋の買取価格が2,000円なので販売価格は推して知るべし。ゼロ年代の未来予測が20年後に答え合わせされつつある今、すごく読みたくなっている。
