『フレディ vs ジェイソン』がメタルメタルしててよい
ホラー映画においては『エイリアン vs プレデター』を皮切りに、ちょっとしたVSブームがあって、日本でも『ひきこさんvs貞子』や『冨江vs冨江』があったり、最近になってからも『貞子vs伽椰子』が話題になった。
ともかく、クリーチャー同士を闘わせるというのは、『アベンジャーズ』のようなアメコミヒーロー総集合とはまた別のB級感が面白い。そんなVSシリーズの本命のひとつが『『フレディ vs ジェイソン』で、日本でも馴染みの深いクリーチャー同士の対決ということで、その必然性やお約束を含めてまぁ面白かったのだけど、とにかく音楽がよかった。
メタルアンソロジーとしてのサウンドトラック
それで『フレディ vs ジェイソン』のサウンドトラックをiTunesで確認してみると、ノンボーカルのBGMなんて収録されておらず、Slipknot を筆頭にしたヘビーメタルのアンソロジーになっていて、一曲目の Ill nino 『How can I Live』から引き込まれる。
主題歌にもなっているChimaira『Army of me』もイントロから最高に格好良い。
そして、Murderdolls 『Wellcome To Strange』がややノスタルジックなコード進行で、「さぁ、もっと前においで!奇妙な世界へようこそ!」と語りかけていて、ちょっと泣ける。イロニーをヒューモアに転じさせるのだ。
大人になってからのアイロニカルな視線で没入するB級ホラー映画は『ロッキー・ホラー・ショー』のオープニング曲『SF怪奇映画二本立て』をも彷彿とさせる。
さあ ごらん 深夜の2本立て
見なきゃ損だよ
行こうよ 深夜の2本立て
RKO映画
行こうよ 深夜の2本立て
後ろの席で見ようね
行こうよ 深夜興行 2本立て映画
ちなみに、この曲や『ロッキー・ホラー・ショー』自体が大槻ケンヂの『グミ・チョコレート・パイン』ないで語られるモチーフにもなっている。「後ろの席で見ようね」と誘いながらも、スクリーンにライスシャワーを投げるまでがお作法だ。
さぁ、もっと前においで!奇妙な世界へようこそ
メタルというジャンルが流行ったのも80年代であり、どれだけ過激化してもライブで(事故以外の)死人は出ないし、レコードからでてこれないという醒めた視線を前提としながらも、没入しようとするのはホラー映画に近しいところがある。プロレスもサーカスもそうだ。
80年代においては真剣に論じていた諸々も、情報過多の現代社会においては心の不感症にならざるをえないのが普通ではある。だけど、どこにも本物なんてないとわかっているからこそ前に出て楽しみたいし、他人が楽しみながら心の支えにしている幻想を醒めさせるシニカルさを「良いこと」だと無思慮に信じ込めるのって心底ダサぇなって思う。さぁ、もっと前においで!奇妙な世界にようこそ。