太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

魔女狩りを流行させた活版印刷に宿るアウラと現代の魔女狩り

奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語

魔女狩りハウツーのベストセラー

 15世期から16世期にかけての異端審問、いわゆる魔女狩りを流行させたのは『魔女に与える鉄槌』というハインリヒ・クラーメルが1486年に出版した魔女の危険を訴え、見つけ出し、拷問して、処刑するためのハウ・ツーまで網羅した書籍の流通が背景にあったと言われている。

 そもそも「魔法使い」の概念は女性に限ったものではなかったが、本書の記述において女性名詞を多用したことから魔女のイメージが形作られ、実際に異端審問の対象になったのも女性ばかりになっていった。そこにはクラーメルの個人的なミソジニーが絡んでいるとも推察される。

狂気の美しき媒体となった活版印刷

第2に、活版印刷技術の出現もこの本の 流布 を後押しすることになります。ヨハネス・グーテンベルクによって活版印刷技術が実用化されたのは1455年、この本が出版された1486年は活版印刷による書籍印刷ブームとも言うべき時代です。それまで書物は、手写して複製するしかありませんでした。美しい活字によって記された書物は実際以上の神秘性を伴っており、大量生産によって 瞬く間に普及したのです。

 本書が流行した時代的背景は色々とあるのだけど、大前提として活版印刷技術の実用化があった。ベンヤミンは『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読 (岩波現代文庫)』で「複製技術はアウラの喪失を招く」と主張したが、活版印刷の実用化された当時においては複製技術そのものが神秘であり、大量生産と美しき活字へのフェチズムとを両立させるテクネーとミメーシスの象徴であった。

 これは少し前の日本においても手書きの論文よりも、ワープロで打ち出された論文の方が査読の有無に関わらず正当性が高いように感じていた事に似ている。複製技術が当事者にとって陳腐化するまではむしろ強いアウラを持つのだ。

現代の魔女狩りとしての電文通信

 現代の魔女狩りといえばSNSなどを用いた誹謗中傷であろう。学校裏サイトであり、バクサイであり、LINEであり、Twitterである。仮に匿名の一人が書き始めた事であっても多数派に見えてしまうし、ボタンひとつで複製が行われていくエコーチェンバー現象が拡大伝染し、強烈なアウラを当事者にぶつける。

 ひと昔前まではマスコミュニケーションが絶対だったものが「ネットは真実」に移り変わり、一部の人にとってはそれさえも虚構に感じはじめてリモート会議などの新たな複製技術を模索していることだろう。

 複製技術の発展によってアウラは剥ぎ取られていくものと言われてきたが、陳腐化に至る直前の複製技術はむしろアウラを強くする。それはごく現代的な逆転現象だと考えていたが、魔女狩りの時代から繰り返された歴史的な側面があるのだ。

BRUTUS特別編集 合本 危険な読書

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  • 発売日: 2019/08/16
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