DOGE構想:COBOLをAIで“爆速”書き換え?
SAMOSA案の提出を背景に、マスク氏の側近であるスティーブ・デイビス氏が主導する今回の計画は、6000万行以上のCOBOLコードを含む巨大なSSAのシステムを全てJavaなどの現代的な言語に書き換えることを目指しています。通常であれば10年はかかるとみられる大規模な移行を数カ月で行うために、DOGEは生成AIを使ってコード変換を試みると予想されています。
2025年、イーロン・マスクが率いる米政府効率化部門「DOGE(Department of Government Efficiency)」が突如としてぶち上げた大改革。それは、アメリカ社会保障局(SSA)の基幹システムを、生成AIの力で数カ月以内に全面刷新するというものであった。
DOGEはこの巨大なシステムをモダン言語(Javaなど)で書き換えることで、政府の近代化とコスト削減を図るとしている。その背景には、マスクが掲げる「連邦政府の支出を130日以内に1兆ドル削減する」という大風呂敷があるのだけど、個人的にはイーロン・マスクらしい「第一原理思考」への憧憬と、AIコード生成エージェントへのやや過大な幻想を撫でられてクソデカ感情に支配されていた。
生成AIとCursorが与える万能感と限界
僕自身もCursorを用いたAIペアプログラミングを日常的に使うようになったし、その驚異的な効率には感嘆する場面も多い。既存コードを読み込ませ、ユニットテストを生成し、差分を取りながら段階的にリファクタリング――たしかに、理屈としては通じるし、今度の会議で大幅なコスト削減を提言したくもなってくる。
だがそれは、「コードの目的が明確で、テストが書けることが前提」でもある。SSAのように、仕様書が失われ、現場知が人間にしか残っていないようなシステムでは、「AIが見た目上は正しそうな結果を出力した」としても、それが“法律的に正しい”かどうかの網羅までできる保証ががない。
COBOLという言語は、確かに“古い”。だがそれは、時代遅れであることと同義ではない。むしろCOBOLは、業務ロジックに特化した構造と人間可読性の高さから、社会インフラに特化した言語として半世紀以上も実用され続けてきた。SSAのシステムは、COBOLでの積み重ねの中に、法制度、例外処理、地方自治体ごとの慣習など、あらゆる“実務知”が埋め込まれている。それを単に「古いから新しくする」というのは、家の設計図がないまま全ての配線を引き直すような危うさを伴う。
このシステムに関わってきた元上級技術者の表現を借りれば、SSAのコードベースは「針金とダクトテープで繋ぎ合わされた」ような状態にある。どこか一箇所を不用意に外せば、全体が崩壊する。そんなものをAIで一括変換し、テスト期間もろくにとらずに移行するというのは、自殺行為に近い。
イーロン・マスクの「第一原理思考」への憧憬
それゆえ、技術革新と社会保障。この2つを無理に融合させるのではなく、もう少し狭い範囲で適用しながら小さな成功事例とノウハウを貯めてから風呂敷を広げる枠組みこそが必要であろう。なんて優等生的なことを言いたくなってしまうが、それだと改善効果が出るまでが遅すぎると云う観点もある。
イーロン・マスクは「第一原理思考」を徹底しており、ロケットの部品ひとつひとつを慣例や市場からではなく「物理学」の見地から見直して、ロケット1台の打ち上げ費用を10分の1近くまで削減したと云う。
第一原理思考は、単に大きな部分をひとつひとつの要素に分解するものではない。この思考のポイントは、自分のつくっているものに対する先入観を取り除くことにある。 その意味では、継続的改良とは対極にある。すでに存在するものの上に構築するのではなく、アイデアを基本要素に分解し、別の方法で問題を解決するにはどうすればいいかを考える思考だ。 つまり「脱構築と再構築」の継続的プロセスと言える。
さすがイーロン!! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ! 僕自身もSFとモノ作りが好きで神童と呼ばれたこともあったのに、いまや事なかれ主義のサラリーマン。ちょっとした改善と現状維持は得意だが新しい何かを生み出した経験はあまりない。
AIエージェントの本格化によるワクワクと醒めた気分が半ば混在するなか、藤井太洋の『ハロー・ワールド』を読んだ。カメラデバイスの脆弱性、自動運転、ドローン、ライブストリーム、マストドン、ビットコイン、スマートコントラクト。そこに付随する革命の兆しとハイプサイクルの結果論。決してゼロになったわけではないが、人間の生き方までは大きく変わらなかった現実界の現実解。
それでも、AIエージェントによってこそ自分の仕事や生活さえも「第一原理思考」で再定義できるんじゃないかという妄想だけは大きくなっていく。だからハイプサイクルにおける「過度な幻想」の魔法が解けないでほしい。SSAという巨大かつ倫理的にもまずい賭け金の危機に対して「幻滅期にだけはしないで」と無責任にも思ってしまう自分の心がふたつある。踊り続けさせて ねえ イーロン。