Deep Researchの衝撃とラストエリクサー症候群
Deep Researchとは、AIプラットフォームが提供する高度なリサーチ支援機能である。ウェブ上の多様なソースを検索・分析し、意味構造を持ったレポートを生成するという単なる検索とは一線を画した機能だ。ニッチな経営戦略や競合調査レポート、自分用にカスタマイズした学習参考書の生成までソツなく巧くこなしてくれる。現役コンサルタントからもジュニアレベルが2営業日ほど調査してサマリーする程度の品質にはなっていると評価している。
その間に別の作業をしていても良いのだけど、モバイルで適宜判断するだけで良いことは並行できる作業の幅を圧倒的に広げる。自分などはスポーツジムでの筋トレクールダウン中に指示出しすることもある。
処理時間はそれなりに掛かるが処理自体はサーバー側でしてくれるので自分自身は別のことをしてれば良く、その性質としてはVIBE Codingにも類似している。しかしながら、ChatGPTにおけるDeep Researchの使用回数は限られており、月$20のPlus契約であれば月に10回。月$200もするPRO契約であってさえ月に120回までとなる。その労働価値は10万円以上あるのかもしれないけれども、気軽には使えずラストエリクサー症候群になってしまう。
Deep Researchのラストエリクサー症候群
ラストエリクサー症候群とは、特にRPGにおいて頻出する心理的現象である。たとえば『ファイナルファンタジー』シリーズで登場する「エリクサー」は、HP・MPを全回復する貴重なアイテムだ。プレイヤーはこれを「もっと重要な局面のために」と温存し続ける。だが、実際にはその“重要な局面”は来ず、エリクサーを使わずにゲームが終わる。
これはゲームに限らず、現実のビジネスや生活にもそのまま転用できる。たとえば、ChatGPTのDeep Research機能を「月10回までしか使えないから」と温存しすぎて、実際の調査や意思決定の場面では使わずじまいで終わる。高級なノートを「特別な用途のために」と棚にしまい込んで使えないまま古くなる。情報収集や資料テンプレートを「もっと重要な案件のために」と温存して、結果的にどこにも活かせない。
エリクサーをCAPEX発想で消耗品から装備品に転換する
人間は「今のために使う」よりも「未来の可能性に備える」ことに安心感を感じがちだ。だが、そこで失われるのは“いまこの瞬間の前進力”である。ラストエリクサー症候群を克服するには、「このリソースを“今”使ったほうが、未来の自分に装備として返ってくるのではないか?」という問いを自分に投げかけることが有効だ。
たとえばDeep Researchで「業界トレンドの俯瞰図」を得ておくことで、無駄な検討時間が減らせるかもしれない。BIツールの大枠を生成して以降のKPIモニタリングが楽になるかもしれない。週に2〜3回使うだけで、1ヶ月後には生産性が上がるための資産が整備されることもある。そのリターンは、温存している間には生まれないものだ。ラストエリクサー症候群の本質は「温存による失敗」であり、縮小均衡であり、「使い切ってこそ得られる複利の知性」こそが現代的な知の使い方となる。
つまり、エリクサーという "消耗品" の例えが誤っており、我々は "装備品" を装備していなかっただけであるというCAPEX(資本的支出=設備投資)発想の転換が必要となる。RPGからは「ぶきや ぼうぐは かならず そうびしてください! もっているだけじゃダメですよ!」と教えてもらっていたではないか。
その他のツールを併用して効果を高める
そうは言っても、月に10回だけだとどうしたって抵抗感がある。だが、近年では他の大手プラットフォームも類似機能を提供しはじめており、ユーザーの選択肢は広がっている。特にGoogle Gemini ではDeep Researchが無料提供されており、ChatGPTとほとんど変わらない結果を出すことができる。
Perplexityの無料プランも1日5回のDeep Researchを利用可能。XにおけるGrok 3も、X Premium+またはSuperGrokプランに加入すればDeepSearch機能が利用可能になる。これらはまだ発展途上の印象があるが、ChatGPTのDeep Researchさせる前の“前哨偵察”として使い、「調査の方向性を掴む」「必要なキーワードを洗い出す」といった役割に使えば、ChatGPTのDeep Researchを総仕上げに使う運用ができる。
前哨偵察での観点を取り組み、プロンプトエンジニアリングを工夫し、さまざまな論点を網羅させるDeep Researchには30分程度かかることがあるため「寝る前にリサーチを仕込んでおく」というルーティンがフィットする。翌朝起きた時には高密度なリサーチ結果が整っており、自分が考えるべき問いに対して、AIが外部知能としての足場(スキャフォールディング)を作ってくれる。そしてその足場は、次の洞察や意思決定へと自然とつながっていく。
つまり、Deep Researchは「エリクサーのような消耗品ではなく、装備品である」と発想を転換するためにこそ、3日に1回は思考の装備を整える時間を確保する習慣を設計して計画的に使い切ることが重要となる。『完訳 7つの習慣 30周年記念版』でいうところの「刃を研ぐ」だ。もちろん、思いついたら雑に即実行できるぐらい気軽なサービスになったら良いのだけけれども、せっかくの有料契約を計画的に使い切って資産化しようという習慣も今のところはなかなか良い。