ウェブ進化論を読む
節約生活をしながら、趣味プログラミングを再開したり、毎日ブログを書くのが当たり前になったりしてくると、過去に読んだ梅田望夫の『ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』が思い出されてきた。
そもそもウェブ上のコンテンツが無料になるための諸要素が揃う「チープ革命」が節約のための必須要素となっている。その上で「ネット世界の三大法則」が、まさに自分がやろうとしていることなのではないかと思えたきた。
- 神の視点からの世界理解
- ネット上に作った人間の分身が金を稼いでくれる新しい経済圏
- (≒無限大)×(≒ゼロ)=Something
著者は「インターネット」「チープ革命」「オープンソース」がある閾値を超えた時に上記の法則が成立すると説いてきたのだ。
神の視点
ここでいう「神の視点」とはログに対する統計データの事だ。流行りの言葉で言えばビッグデータである。Googleはもとより、僕自身のブログやSNSにさえ行動集積の結果は蓄積されており、それらは「こういう人は、こういう文脈で、こう動く」という膨大なサンプルデータとなる。そんな前提においては、主観的に作った「こうだからこう」「こうすべき」といった妄想的なシナリオではなく、A/Bテストなどのアクションによって変化した事実の蓄積によって俯瞰的に最適戦略が決まっていく。
その結果として、『ウェブはバカと暇人のもの』という結論がくだされてしまう「日本インターネットは残念」なのだけど、それが人間の本質なのだろう……なんて悟った事を言えてしまうことこそ「神の視点」である。
そのような調査ができたのは大企業のマーケッターなどに限られていたわけだし、それらも自己言及的なヒアリングが含まれていたために現実の行動が正確には記述されていなかったのが実際であろう。なので個人であってもGoogle Analyticsなどに集積された事実を元に判断できるというのは、なかなか凄い時代といえよう。
ネット上に作った人間の分身が金を稼いでくれる新しい経済圏
夫婦で共働きする事を「ダブルインカム」と言うが、それぞれがネット上の分身を稼働させてインカムを得るという「クアッドインカム」でポートフォリオを組む事になると著者は指摘する。それができれば1つのインカムではハイリスク・ハイリターンを狙ったり、子育てのために使おうといった事も簡単になる。
ネット上に作ったWebサイトは現実世界の私が何をしてようが独立して動き続ける。ブログは『ジョジョの奇妙な冒険』における「スタンド」だと思っているのだけど、僕が預かり知らぬところで誰かが困っていた事が勝手に解決されたりするのはなかなか愉快なものだ。
一度書いて公開した文章は検索されたり、ソーシャルメディアで共有されたりして、僕の預かり知らぬところで各人に複数的な意味での価値を産むことがある。ブログを書くこと自体を村上春樹になぞらえて「文化的雪かき」と表現しているが、自身の文脈においても幾つかの対価を見出している側面があるのは事実です。
これはプログラミングも同様である。「誰もやりたがらないけれど、誰かがやらないと、あとでどこかでほかの誰かが困るようなことは、特別な対価や賞賛を期待せず、ひとりで黙ってやっておく」と村上春樹が言う「文化的雪かき」を自動化する「文化的雪かきロボ」を作りたい。黙々と人間以上に良い動きをしてくれるものを作っておけば、僕自身が怠惰であってもなんとかなる。
(≒無限大)×(≒ゼロ)=Something
ここでいう「Something」とは「本来であれば消えて失われていったはずの価値の集積」を表している。1億人の人に1円を貰ったら1億円になるという夢物語はGoogle Adsenseなどの広告によって小さい範囲では現実味を帯びてきている。10万人を集めたら1万円ぐらいにはなるし、1億人が3秒の判断を提供すれば1万人がフルタイム勤務するのと同等である。
少ない人数から高額を得ようとすればどうしたって詐欺的な話術や被害者が発生しがちなのだけど、例えば大人数が読む書籍レビューによるアフィリエイト収入であれば、そもそも自分が面白いから紹介しており、出版社の校正を経て一定のクオリティがあって、相対的に安価なものを提供できる。そういう偽善的なスタンスを貫きやすいのは相応の人数がいるからなのだろう。
サラミテクニックであり、ロングテール。単位あたりは極小の売上であっても、それよりも小さいコストで無限にできるのであればやる価値がある。
APIを利用することのレバレッジ
趣味プログラミングを再開して思うのはWeb APIの利用がどんどん簡単になっているという事だ。『ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』の中にもGoogleマップのAPIを利用して、はてなマップを5日間で作った話が出てくる。
色々なウェブサービスがマッシュアップされる前提が既に出来上がっていて、個人が無料で扱う事ができる。データセンターからサーバーを借りてJavaなどで「ちゃんとした実装」をしようと考えていたことが、結果としてオール無料かつ高速に実装できる。それってなんだか不思議な感覚である。
本当の大変化はこれから始まる
Webに閉じた話であれば、夜や週末にちょこっと勉強しただけで大抵の事が実現できる現代。「知の高速道路」の先の渋滞を抜ける事こそが大変ってのはあるのですが、大抵のやりたい事や、ちょっとした利得に関しては渋滞してる範囲まででも十分に見込みがあるような気がている。
そんなわけで、『ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』が出た時点ではちょっとバカにされていた部分もあったとは思うが、結構正しい未来予測だったんじゃないのかなーって思えてきた。