太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

不注意が起こるアーキテクチャを作っておきながら、不注意を責め立てて小銭を巻き上げる「フールペナルティ型ビジネス」

バカの壁 (新潮新書)

フールペナルティ型ビジネス

 無料ないし非常に安価、むしろ契約すればキャッシュバックという形で契約をしておきながら、一定の条件になった途端に売上見込みが跳ね上がるタイプの契約が増えてきました。昔からあった話ではあるのですが、それぞれの相乗効果で「不注意」「怠惰」を意図的に起こしているのではないかとさえ思われます。

 契約数が少ない内は対処もできるのでしょうが、契約数が増えていけば本当に全部解約できたか不安ですし、面倒になって放置してしまう事も起こりえます。それでも数万円単位ともなれば本気で解約したり、異議申立てもするのでしょうが、月額数百円単位だったりするとペナルティを受け入れることが常態化されて行きます。

 そのようなビジネスについて「フールペナルティ型ビジネス」と名づけてみました。決して「B層」がターゲットという話ではなく、それなりに理知的な人でさえも適切な処理に失敗するような機会を積極的に作っていこうとするビジネスです。

100円レンタルDVDの収益構造

 例えばレンタルDVDはいまや1週間100円で借りられますが、1日延滞するごとに300円も取られます。よって1日多いだけで合計400円で4倍の売上ですし、3日延滞すれば10倍の1000円です。もちろん延滞した方が悪いという大前提もあって、不当だと思いつつも払えない額じゃないから払うといった状況が日本全国で起こっていることが推測されます。

 穿った見かたをすれば「1週間」というのがミソです。1泊2日だったらまず延滞しないように処理するのでしょうが、5日も経つと返却期限が意識から消える瞬間がでてくる人もいるでしょう。10人が10枚のレンタルを2回づつしたとしてして、1人が3日間延滞する事案が1度でもあれば1000×10×2 + 900×10=29,000円で本来の売上の1.45倍になります。実際の割合はもっと低いでしょうが、100円レンタルによってレンタルの絶対数を増やすような施策をするのにあたって、それを織り込んだ収益計画になっているのではないかと考えるのはうがちすぎでしょうか。

 「例外としての莫大な違約金」という感じではなく、個々で見たらカジュアルなペナルティにして数を積み上げるのが今風です。そのような事を起こさないためには延滞の概念がないネットレンタルを利用したり、そもそもインターネット上のオンデマンドサービスを利用していった方が良いのかもしれません。

携帯電話のオプション契約

 『au版iPhone購入者は注意!月額3,108円のオプションを強制加入させられる』が話題になりましたが、まずはオプションを体験してもらってあわよくばというよりも、解約し忘れを狙ってのインセンティブを最初から見越しているようにも思われます。体験してもらうのであれば、もっと詳細に説明してもらわなければサービスのメリットが分かりませんし、「明日解約してくれれば良いから」なんて台詞は言えません。

 オプションを解約するにしても、ひとつひとつは些細なことなのですが、一括解約ができないため、どれかの解約漏れをしてしまう人が一定割合では出てくるものと思われます。私自身もオプション全解除作業が必要だったので戸惑うところもありました。結局はサポート電話で状況確認と解約作業をしてもらう方が良いようですね。

フリーミアムモデルとフールペナルティ

 『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』では5%の有料ユーザーが95%の無料ユーザーを支えていると表現されます。この5%についてはロイヤリティが高くてヘビーユースしているという性善説的な見方もできるのですが、その実は解約作業にまつわる影響調査や作業が面倒だから払い続けているにすぎない人も多いというのが実情でしょう。

 初月無料の有料メルマガについても、実際には読めてないけど解約はしておらず、「メールを読めていないからこそ有用性が判断できないため、今は解約できない」といった状況が起こっているように思われます。もともと「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が強いメディアという事もあり、文字数が増えるほど取り敢えず有用であろうというメタ認知が働くのだと思います。単純にお布施感覚の場合もあるでしょうが。

意志力は一定量しかないのだから無駄な契約を複数並行でしない

 繰り返しますが、ひとつひとつは冷静になれば大した話ではありません。それでも管理すべき契約数が多くなるごとに指数関数的に暴力性を帯びてくるのです。短時間のうちに使える意志力の合計量は個々に決まっており、それを超える意志力を発揮するのは難しいわけで、10個までなら冷静に対処できても100個になれば1個ぐらいバカになる瞬間がでてきてしまうのも仕方がありません。

 そういう状況に追い込んでおきながら、「自分がうっかりしていたのだから」と自罰に誘導して小銭を巻き上げるのはあまり良い事とは思えません。われわれ消費者としてもそんな事に意志力を消費するのではなく、もっとマシな事に意志力を使った方が良いので毅然とした態度で断ったり、その場で解約するといった態度が必要になってくるのでしょう。

 自分が「情強」であると思うほどに「ある契約において一定の条件を満たすと得になるスキーム」を発見しやすいのですが、その条件を逃してしまうとむしろ損になるリスクを抱えている事が多かったりします。契約をしようとしている時は遂行できる自信が生まれがちですが数が増えると厄介になります。意志力を消費するのに値することなのかについては冷静に判断した方がよいでしょう。