太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

大橋悦夫『「手帳ブログ」のススメ』〜私の頭を通り抜ける宇宙線をウィルソンの霧箱で捉えて霧笛を吹く

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photo by kevinspencer

「手帳ブログ」のススメ

 本書は「日々の記録から成功を引き出すブログ術」というコンセプトで、ブログの効用や続け方について書かれています。あくまで記録を続けたり、そこから発見を得るには?という観点で書かれており、アクセスアップやアフィリエイトの話がほとんど出てきません。

 『http://utakata-blog-party.hatenablog.com/entry/2013/09/29/231311』の件について『青二才のあの案 tm2501 vs bulldra』でなぜか僕が名指しされてアクセスアップ云々みたいな事を言われています。

 でもアクセスを増やすための施策とかはあんまり考えてませんし、むしろ『ノンジャンルブログでありたいのだ〜「勝つ事」よりも「勝ち方」に拘ってしまうアマチュアブロガーの勝利条件 - 太陽がまぶしかったから』のように「PVやはてブ以外のモチベーションも探しとこう」って話ばかりしているような気がします。

tm2501 vs bulldraでやって欲しい。どこか対象ブログを決めて、アクセスを増やす手法とやらを両者ともに公開、評価が高い方にブクマをつける方式。秒速で1億アクセス稼ぐはてな界の与沢翼か、はたまたはてな界のノマドーか、あなたは世紀末の目撃者となる!!

 正直な事を言えばアクセスアップとかアフィリエイトで云々みたいな話は正直お腹一杯だったりもするんですよね。本気で稼ぐ「自動更新のアフィサイトを1000個以上作れ」「はてブスパムしろ」「キーワードスパムしろ」「炎上商法しろ」でFAなのであまり興味が湧かないのです。数の暴力や炎上の前には個々の質なんてトリヴィアルだったりもしますし、規約違反にならない範囲でのそれを否定する気もありません。

ブログのモチベーション

 前置きが長くなりました。それでも「長文のブログを書いているのはなぜか」についての考え方を補強する材料がこの本には書かれています。

 私自身、日々手帳的にブログを書き続けることで多くの発見を手にしています。発見はすべて日々の仕事に活かされ、仕事で得られた新たな発見は再びブログにフィードバックされています。本書もブログを書いている中から生まれました。


 ブログを毎日書くようになってから発見の連続だったりもします。メモ帳の段階では思いも付かないことが結合したり、『感想をブログで書いてもらえると喜びます - はてなブログ グループ』を始めとしたフィードバックからまた考えたりできています。題材的に「仕事に役立つのか」までは微妙なところですが、まぁ「人生がときめく」部分がまったくないわけでもありません。

 このことについて、本書では以下の4つのステップに分けて実施しようとしています。

  • 記録する
  • 読み返す
  • やってみる
  • 習慣をつくる

記録する

 とにかく毎日書いてみることが大切だと書かれています。これは僕も実感してます。昔は週1回更新で超長文を書くというつもりでいたのですが、徐々に更新頻度が減ってしまって、2ヶ月放置なんてことがザラにありました。それで質が上がったのかといえばそんな事もなく、同じ話をぐるぐるとTwitterやメモ帳に書いていただけでした。どんな形であれ、一旦は文章化してみるという作業が必要なのだろうと思います。

 そうは言っても、いきなり毎朝平均4,000字とかは初心者の人には無理だと思います。なのでまずは「事実」「気づき」「教訓」「宣言」のように1行づつ書いていく『一日5分奇跡を起こす4行日記―成功者になる!「未来日記」のつくり方』が紹介されます。そして、ブログの題材については「アイデア5分」という習慣が良いと書かれています。

頭にある夢や目標、問題や課題、不安や不満など何でも良いので一件ずつ箇条書きにしていく。まずは、5分間で何項目書けるかに挑戦してほしい。一番たくさん書けた方には私の本を一冊プレゼントする。


というゲームを参加者数十人で行ったのだ。


書き出す項目は公私にわたってOK。何でもよいから思ったことを書き出す。ただし、可能な限り積極的に明るく、具体的に書いてほし
いとお願いした。


「資金繰りが苦しい」と書ていては気分も暗くなる。だから、「毎月の現金収支をプラスにする」と書けば気分も明るくなる。
「社内が沈滞したムードなので直したい」ではなく「活気に満ちた明るい社風を作る」と書く。


「社長の内的生活」 経営コンサルタント がんばれ社長!「社長の内的生活」 経営コンサルタント がんばれ社長!

 5分間でできる限り書いていくことで、それがブログの種になったり、実際の生活改善に役立っていくということです。『[asin:4817180242:title]』よりも、もっとプリミティブな感情を書いていくというのがポイントなのかもしれません。

読み返し

 日々の色々な情報を読んだり、書き出したりしているなかで「これは大切!」って思っていても案外忘れてしまいます。実は「大切」には「生命を維持する上で大切なこと」「自分の行動を変化させる上で大切なこと」の2種類があり、後者については意識的に注意を向けないとすぐに忘れてしまうという事を本書は指摘します。

 これを防ぐためには「読み返し」が必要になってきます。読み返そうとは思うのですが、結構ログが溜まってきたので、ランダムに読み返すのが重要なのかもしれないと考え、TwiterBotに過去記事をつぶやかせたりしていました。もちろん皆に過去記事を読んで欲しいという意味合いもあります。『EverShakerを使って自分のブログの過去記事を読み返すと楽しい - ウラガミ』によるとEverShakerも良いみたいなので、それを使ったりも考えてみます。

https://itunes.apple.com/jp/app/evershaker-evernote-wo-zai/id500619130?mt=8&uo=4&at=11lck7

やってみる

 個人ブログ運営は大きなステークホルダーが関わることもなく、『仕事は楽しいかね?』でいうところの「試すことに失敗はない」がしやすいプラットフォームです。デザインや文章やスタンスなどについて色々と試しては、うまくいったり、失敗する事を繰り返す事で徐々に自分の形を作っていくことができます。

 また、「ブログに書く」という「逃げ方」が出来るからこその挑戦もしやすい側面があります。かつてクソゲーハンターというのがあって、「クソゲーを掴まされてしまった時には、それを綿密にレポートすることで『元を取る』」なんて事が宣言されていました。これって、人生全体や一部がクソゲーであったとしても有効な考えになっている側面があると思うのですね。

 僕自身は、過去の過労や裏切りなどから患ってしまった慢性体調不良や厭世観と付き合っていく必要がありますが、だからこそが書ける事も多々あります。『http:/bulldra.hatenablog.com/entry/2013/09/28/082106:title』の話もあって、結構つらぽよなのですが、それだってブログのネタになると救われているところもあります。

習慣をつくる

 「習慣をつくるためにはペースメーカーが必要である」と本書では書かれています。ペースメーカーとはマラソンなどで、敢えて均等なペースで走って選手を先導する役目の走者のことです。選手単体でペースを作ってしまうとライバルとの状況だったりで乱されてしまいがちですが、ペースメーカーにしたがうことで適切な体力配分を行うことができるようになります。

 ブログにおいては、毎朝届くメールマガジンや『ほぼ日手帳公式ガイドブック2014 ことしのわたしは、たのしい。』の「今日のことば」などがペースメーカーに良いと紹介されています。それを読んで思った事を書いてみると、それがそのままブログの記事になるということですね。

 これは他のブログでも良いと想います。『感想をブログで書いてもらえると喜びます - はてなブログ グループ』には、ブログの感想を言い合うと喜ぶ奇特な人達が集まっています。先日は『相互レビュー社会を生き抜く倫理経済学〜岡田斗司夫『「いいひと」戦略』 - 太陽がまぶしかったから』について『色んな、「いいひと」たち。 - 犬だって言いたいことがあるのだ。』のような形で広がっていきました。誰かのペースメーカーになれるかもというも自身の習慣化の役に立っています。

ブログを続ける動機づけ

 経済学者のハーズバーグは、人が働く上での動機づけに関わる要因を満足度を上げる「動機付け要因」と、不満を減らす「衛生要因」に分類しています。このうち「衛生要因」が改善しても、モチベーションにはなりません。

 『「普通」という概念のスタグフレーションと「普通」ハラスメント - 太陽がまぶしかったから』における「普通」との差分による「債権感」ですね。『近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法』〜「劇的な回心」を引き起こす巫女の儀式に人生が片づけられる - 太陽がまぶしかったから』で紹介した「狩野モデル」も適用できます。「PVが他より低いから」みたいな不満の解消のための云々を読むとうーんという反応をするのはそういう理由があったりもします。あくまで、自分にとっての「動機付け要因」はなんなのかについての掘り下げが必要になります*1

ウィルソンの霧箱

 本書の最後では梅棹忠夫氏の『知的生産の技術 (岩波新書)』からの引用がなされます。

「発見」というものは、たいていまったく突然にやってくるものである。まいにちみなれていた平凡な事物が、そのときには、ふいにあたらしい意味をもって、わたしたちのまえにあらわれてくるのである。たとえば宇宙線のような、天体のどこかからふりそそいでくる目にみえない粒子の一つが、わたしにあたって、脳を貫通すると、そのとき1つの「発見」がうまれるのだ、というふうに、わたしは感じている。


宇宙線は目にみえない。目にみえない宇宙線を観測し記録するためには、それを目にみえるかたちでとらえる装置が必要になる。「ウィルソンの霧箱」とよばれる装置は、それである。


宇宙線は、天空のどこかから、たえず地球上にふりそそいでいて、だれの大脳をも貫通しているはずだ。したがって、「発見」はだれにでもおこっているはずである。それはしかし、瞬間的にきえてしまうものだ。そのまま、きえるにまかせるか、あるいはそれをとらえて、自分の思想の素材にまでそだてあげるかは、その人が、「ウィルソンの霧箱」のような装置をもっているかどうかにかかっている。「発見の手帳」は、まさにそのウィルソンの霧箱なのである。

 この事について奇しくもズイショさんの ( id:zuiji_zuisho )『「寿司に寿司をぶつける冒険」あるいは「およそ3の世界からの脱出」 - ←ズイショ→』で紹介されたレイ・ブラッドベリの『霧笛』を連想しました。

それはあまりにも孤独な音なので、誰もそれを聞きもらすはずはなく、それを耳にしては誰もがひそかに忍び泣きをし、遠くの町で聞けばいっそう我が家が暖かく、なつかしく思われる…そんな音を作ってやろう。
おれは我と我が身を一つの音、一つの機械としてやろう。
そうすれば人はそれを霧笛と呼び、それを聞く人はみな永遠というものの悲しみと生きることのはかなさを知るだろう。


『霧笛』

 私の頭を通り抜ける宇宙線をウィルソンの霧箱で捉え、それを霧笛で吹けば、誰かへの宇宙線として頭を通り抜けて、彼も霧笛を吹いてくれるのかもしれない。それはまさに僕がブログをやっているモチベーションのひとつなのかもしれません。

*1:もちろんPVやはてブそのものが動機付けなんだっていうのはアリです。