太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

冬野梅子『まじめな会社員』感想〜無難な真面目系クズは自分のランキングが低いとコロナ禍で自覚させられる問題

まじめな会社員(1) (コミックDAYSコミックス)

『まじめな会社員』の痛み

コロナ禍における、新種の孤独と人生のたのしみを、「普通の人でいいのに!」で大論争を巻き起こした新人・冬野梅子が描き切る! 菊池あみ子、30歳。契約社員。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せずにいる自分へ向けられる世間の厳しい目を、勝手に意識せずにはいられない。それでもコツコツと自分なりに築いてきた人間関係が、コロナで急に失われたら…!?

 モーニング月例賞の奨励賞を受賞してWeb掲載されていた『普通の人でいいのに!』で爪痕を残した冬野梅子が連載を開始したことまでは認識していたのだけど、なかなか追えていなかった。ふと気が付けば単行本が2巻まで出ていたので一気読みして心が抉られた。ちなみに『普通の人でいいのに!』は2巻の巻末に特別収録されている。

定型文でない会話の嬉しさ

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ブログ中毒はパチンコ依存症、Twtter 中毒はパチスロ依存症に似ている

私、パチンコ中毒から復帰しました (中公新書ラクレ)

ブログパチンコ依存症の再燃

 ここ2週間ほどブログを再開していたのだけど、改めてブログはパチンコであると感じている。ある程度の軌道調整はあれど当たり始めるかは運の要素も大きく、はてなブックマーク等で当たりの通知が出始めたら他SNS、ニュース系アプリ、ニュースサイト掲載などで何連チャンの確変ができるのかに興味が移っていく。Google Analyticsのリアルタイム訪問者表示は出玉そのものである。2013年頃は完全にブログパチンコの中毒になっていた。

 現在はディスプレイ広告を掲出していないし、文章仕事も廃業して、承認欲求なども薄れているので心穏やかに書きたいこと書けると思っていたのだけど、再開1回目のサイゼリヤ記事がいきなり100ブクマを超えて見事にブログパチンコ依存症がフラッシュバックしてしまった。パチンコでも競馬でも再開時だけ上手くいくセカンドビギナーズラックが一番危ない。もちろん当たりは続かない。

 お金のためだとか、仕事に繋げるためだといったエクスキューズがあればプライドを捨てたバズ狙いもそういうものだと割り切れるが、大した実利もないのに当たりの快感だけを求めてしまうのはギャンブル依存症純化している。ブログ更新にはお金もかからず、読書や思考のモチベーションになるのだから健全なギャンブルにも思えるが、報酬系がバグるという観点においてはパチンコと大差ない。とまれ、ハイペースでしてきた更新もまたゆっくりなものにしようとは思っている。お刺身食べたいなぁ。

Twtter というパチスロ

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石田夏穂『我が友、スミス』感想〜別の生き物になりたいからこそ意識させられるクラシックなジェンダー規範の檻と逸脱

我が友、スミス (集英社文芸単行本)

『我が友、スミス』感想

【第45回すばる文学賞佳作、第166回芥川賞候補作】「別の生き物になりたい」。筋トレに励む会社員・U野は、Gジムで自己流のトレーニングをしていたところ、O島からボディ・ビル大会への出場を勧められ、本格的な筋トレと食事管理を始める。しかし、大会で結果を残すためには筋肉のみならず「女らしさ」も鍛えなければならなかった――。

 書き出しにくる「火曜は脚の日だ。」の見事さ。筋トレ後の回復には2〜3日かかるため、毎日の筋トレ続けるためには部位を曜日ごとに分けて追い込むスプリット・ルーティンが必要となり、その中でもキツいのは身体全体の筋肉の半分以上を支配する脚を鍛える日だという筋トレあるある。

 あまり化粧気のない真面目な女性がボディ・ビル大会出場に向けて動き出すことで生まれる変化や葛藤を鮮やかに描く。少しでも筋トレを経験していると高揚感や挫折感やいちいち共感でき、やったことない人にもこんな世界があると見せてくれる言語化のディテールが面白い。

 ちなみに「スミス」とはスミス・マシンのこと。レールで軌道が固定されたバーベルはペア・トレーニングができない孤独なトレーニーにも安全で優しい。筋トレは独りでも黙々と出来るからこそ続けやすい趣味という側面があり、ジムで「こいつ、いつもいるな」と思うことはあっても話しかけることはない。スミスくんだけが友達である。

ボディビルという奇妙な競技

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