太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

心の栄養失調には切ないスパイスが必要なのだけど

photo by chooyutshing

心の栄養失調になっている

 「あるべき姿 = 現状 + 課題」という定式を用いて、あるべき姿からの不足分を課題解決していくという方法論は「バックキャスティング」と呼ばれ、効率的に物事を進めていくには必須の考え方である。だけど、この方法には「あるべき姿」がぐにゃぐにゃし始めたり、「あるべき姿」を現状よりも低い位置に設定し直した時に、うまく動けなくなるという副作用があって、ここ1週間ほどの自分がそういう状態になっている。

 金田一耕助は解決すべき事件がないとメランコリアになるのだけど、僕自身も「解決したい課題」を栄養にして動いているのだろうと思う。しかし「解決したい課題」は「頑張れば解決できそう、かつ解決したら満たされそう」という性質を備えている必要がある……という選り好みをしてきた結果として「心の栄養失調」が引き起こされている気がする。

再設定した「あるべき姿」が現状よりも低くなってしまった

 30歳までに出来る限り上にあがって、そこから先はグライダーに乗るような生活をしていこうと思っていた時期があります。キャリアプランニングの話でも、「人生の前半は山登りで、後半は山を降りていく」なんて例えがよくされています。エンジニア35歳定年説とかを散々聞かされましたし、その後に勝間和代が結婚35歳限界説を唱えたりもしていました。とにかく、35歳までに防衛すべきストックを作る必要があり、そのための射角調整や推進力の確保は30歳までに完了しておく計画でした。

 なんで当時は努力が苦にならなかったかと言えば「後で楽をしたかった」という下心ありきだったんですよね。決して勤勉だとか上昇志向があったからではないのです。プログラマーの三大美徳は「無精」「短気」「傲慢」なのですが、「無精」で「短気」だからこそ事前に苦労してでもプログラムをしておきますし、それができるという「傲慢」さもありました。今になって思えば、その考えを人生にまで適用してしまったのではないかと思います。

 そんなことを何年も前から言ったり書いたりしているのだけど、目標値をぐ~んと下げることで達成できてしまったような感覚もある。独身の実家暮らしで、それなりの資産とツテがあって、特にお金がかかるような趣味もない。「働かない」とか「好きな事で生きていく」という話をしているのではなくて、底辺生活を維持するだけなら疲弊するほど頑張る必要性がないということだ。

 同年代が結婚生活や子供やマイホームなどについての「解決すべき課題」を抱えて疲弊しながらも充実しているのに対して、子供のままでいられる選択肢も提示されているのだ。しかし、ネオテニーのまま楽できるという「あるべき姿」を追求するほどに、「現状」がオーバーキルになっているのだから「マイナスの課題」を解決してアジャストしなければならず、むしろ昼間から酒を飲んで淫蕩に過ごす頽廃の日々を営む必要があるという結論になってしまう。

「せつないスパイス」による欲望喚起が必要なのだけど

 その一方で、過去にはがされてしまった業務効率化やシステム企画についてユーザー企業の立場で再コミットしたいという願望もあるし、「好きな娘とで生きていく」のも悪くない。そちらの未来を自身の「あるべき姿」として描いて信じ込めば、もう10年間ぐらいなら頑張ることもできるだろう。既に10年間は同じ事をしてきたのだから。

 だけど、今回は「それは本心からの欲望なのか?」の掘り下げがうまくできていない。そういう話はええ格好しいの自分がそれらしく言ってるだけで、心から渇望しているのに至らないという「せつないスパイス」が足りていない。「酸っぱいぶどう」だと思い込んでいるだけなら良いのだけど、既に「酸っぱいぶどう」を食べてしまったというのが本質的な問題なのである。この世のどこかに「甘いぶどう」もあるんだろうけれど。

「せつないスパイス」を自己生成するために

 それでも、眼前に住宅ローンがあったり、奥さんを食べさせるといった衛生要因的な事情があるなら、そういう事情を捨て置いて動けるのだけど、枷がなくなるほどに過剰な動機付け要因を補ってやる必要が出てくるし、他者駆動の動機付け要因について忌避し続ければ、自身でハリボテを作りながら、それがハリボテであることに気付いてはならないというアクロバットをこなさねばならない。

 と、ここまでで「必要」やら「〜ねばならない」という言葉を使いすぎだ。つまり、不定形であるが故に高難度な「あるべき姿」に対してバックキャスティングを試みながらも、現状とのズレが精緻に測れなくなっている事が実質疎外を引き起こしている。

変わらないものは何もないから
流れのままに受け止めようよ https://itunes.apple.com/jp/album/l.o.t.-love-or-truth/id75823802?i=75823439&uo=4&at=11lck7

 だからまぁ、一旦はバックキャスティングから離れてプランドハプンスタンス(計画的偶発性)に身を任せよう……っていうありがちな話にするのは簡単なのだけど、本当にそれでいいのかって部分に未だにぐにゃぐにゃとしている。まぁ、どの道に行っても半分は納得して、半分は後悔する事にはなるのだろうから、しばらくは温泉街で湯治をしたい気分である。モラトリアム乙。

カレーライスと日本人 (講談社現代新書)

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