太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

三田紀房の残業代請求問題への対応報告にYAZAWAを感じる

漫画家アシスタントの残業代請求問題

 『ドラゴン桜』や『インベスターZ』などの漫画家として有名な三田紀房氏がアシスタントから訴えられていた未払い残業代の支払いを行った。

1月15日に、私の職場でスタッフをしてくれていたカクイシさんから請求を受けた残業代について、支払いを行いました。

 漫画家アシスタント全体としてブラックな労働環境が黙認されてきたのだけど、『週休3日、残業禁止、「作画完全外注」――漫画家・三田紀房が「ドラゴン桜2」で挑む働き方改革 - Yahoo!ニュース』で述べられたある種の綺麗事と現実とのギャップがキッカケになって、未払いの残業代の請求を行ったのだろう。

 僕自身の座右の銘である「30過ぎたら利息で暮らせ」も三田紀房の『エンゼルバンク』の台詞。すべての作品に自己啓発的要素をもっているため、描かれている内容と漫画家自身の行動の齟齬は一般的なストーリー漫画家よりも格段に影響があると思われる。

残業代請求問題への完璧な報告

カクイシさんの行動に対する批判的な声も耳にしましたが、発端は私の至らなさであり、問題提起に私は感謝しています。ですので、できればこれ以上の彼への批判はやめていただけると嬉しいです

 個別の問題に対しても色々と言いたくなるところがあるのだけど、最終的に印象に残ったのが完璧な報告文だろう。あくまで過失であることを主張しつつ、相手の要望を受け入れて、妥結案と再発防止を提示して、相手の作品の宣伝までする。炎上対策としては完璧である。

 ただ、なんというか「10年後に自伝漫画を描くとしたら、このエピソードをどう消化するか?」といったことまで織り込んでいるのではないかという穿った見方をしてしまいたくなる面もある。もっと言えば、彼自身が描くキャラクターの内面化を体現するための良い機会とすら思っているのではないか。

俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな?

 矢沢永吉がコンサートで地方を回っているときに、しょぼいホテルの部屋しか用意できなかったスタッフに「俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな?」と言ったとされる。矢沢永吉個人としてはどうでもいいけど、スーパースターのYAZAWAとしては許せないという自覚的なセルフプロデュースを示すエピーソードだ。

 残業代請求問題に話を戻すと、労働問題への対応を誤って漫画との言行不一致の印象をあたえると、今後の仕事に差し支えるわけで、どうせ支払うなら未練がましいことを一切言わずに、感謝まで述べれば些末な問題は吹き飛ぶどころかプラスになる。

 三田紀房個人としてどう思っているかはわからないし、それを推測しても意味がないのだけど、職人芸的に高度化した『ドラゴン桜』のようなエミュレーション制御を見て、だから自分は三田紀房が好きなんだろうと思った。