太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

小島アジコ『はてな村奇譚』〜京都の片隅にある狂った寒村で繰り広げられる奇祭の戯画同人誌

はてな村奇譚

 『はてな村奇譚』は、なぜか「はてな村民」とは認めてもらえない小島アジコさん( id:orangestar )により、『orangestarの雑記』において連載されているWeb漫画。はてな村で実際に起こった事件を大幅に戯画化して「奇譚」に仕上げている。

 Web連載漫画をまとめた同人誌の「上巻」に当たる本書が頒布されたコミックマーケット87(2015/12/29)には参加することができなかったが、増田ネットワーク経由で入手する事ができた。ありがたい。

一気読みすることで感じるディテール

 本書はWeb連載をまとめたものだけど、この同人誌を用いて「一気読み」をする価値が高いと思う。もともと「連載漫画」を読むことが苦手で、色々な作品を細切れで読むと作品内の状態への記憶が混乱しがち。この作品についても、ホッテントリに上がってきた記事だけが断続的に目に入るという状態だったので、余計に情報が欠落していて、当時は読み取れていなかった部分が多いとと改めて感じた。

 「一気読み」をすることで、理解できる流れやディテールがあるし、同人誌化にあたってリズムを良くするための加筆も結構おこなわれているようだ。導入部からして描き下ろしだし、台詞の写植もされているわけで、Web連載されているものであるとはいえ、同人誌として購入する価値が高い。73ページ目の「指示を集めた方が勝ちになります」は「支持」の誤植と思われるが。

京都の片隅にある狂った寒村で繰り広げられる奇祭

 有名村民達や「ブクマ売るよ〜」とか「村祭り(ネットバトル)」とかのあるある話が戯画化されていて、ニヤリとする。「ダボルズィロ」はずるい。後半はバトル漫画になっていて、論戦における必殺技名を叫んで派手に爆発させるところなど、『黄金夢想曲[キャンペーン特典付版]』を彷彿とさせる。作者によると『http://ncode.syosetu.com/n9073ca/』をリスペクトしているとのこと。

 定期的に手斧を振り回す人がいて、それにイッチョガミをする人がいて、ネットバトルになっては死体の山が築かれていくのに、しばらくすると何事もなかったかのように日常に戻っていく奇祭。

「なんでこんな…おかしいですよ…」
「え…?」
「狂ってる! この村は狂ってる!」
「え? 今ごろ気付いたんですか?
 そして狂っていたとして それであなたに何か迷惑をかけましたか?」

 はてな村は京都の片隅にある狂った寒村である。それ自体が狂気であると同時に、そこにいる人をも狂気に陥らせる。普通の人々と完全に断絶された異界であれば、まだよかったのかもしれないが、はてなブックマークやGunousyなどを駆使してカジュアルに人々を誘い込んでは「ある種の人々」を定着させ、村祭りを引き起こす。最初から狂気を孕んでいたから残ってしまうのか、残ってしまったから狂気に陥ったのか、外形的には……いや、本人にさえ忖度不能である。

はてなの深淵」に向かう下巻に続く

 本書は「はてなの深淵に向かいます」「下巻に続く」と終わっており、今後は依然として詳細が明らかにされていない「増田(匿名ダイアリー)」や「ウォッチャー」に舞台が移っていくものと思われる。また裏表紙にはヤンデレ風の新キャラが描かれており、彼女がキーを握っていくのではないか。


(藻加工してます)

 僕自身も日常的に使っているサービスが過剰に戯画化されたものを読むと「いやいや」と「そういうとこもある」が同居して、奇妙な感覚になる。はてな村の出来事を大袈裟に話すと本気にしちゃう人が時々はいるのだけど、元になった出来事が実際に起こっているという塩梅が効くのだろう。そんなわけで、はてな村に住み着いてしまった人、はてな村に興味がある人にはぜひ読んで頂きたい。Kindle版も発売中。