太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

日本人が投資しないのは貯蓄好きだからではなく射幸心が満たされないから

Las Vegas, The Freemont Street Experience

投資ではなく投機が好き

ビットコインの分裂騒動で6月以降に相場が下がったが、再び買いに転じる機会をうかがう。「仮想通貨は値動きの激しさが魅力だ」と男性は話す。

 日本の個人金融資産は1800兆円あるが、預金残高は1000兆円を超えている。米国の個人資産の預金率は11%程度といわれているから、差が激しい。これを説明するのに「日本人は貯蓄好き」「リスクを取りたくない」という表現がされがちであるが、そうとは言い切れないところがある。

 ここ最近の仮想通貨やVALU、FX、株信用取引などの活況だし、競馬やパチンコが成立しており、カジノ法案まである。むしろハイリスク・ハイリターンな博打を好んでいるがゆえに、ローリスク・ローリターンを避けたい。中途半端なリスクなら取りたくないという国民性が浮き出る。

パチンコが廃れたのも値動きが減ったから

 今年の7月になって警察庁が発表したパチンコの出玉規制では4時間での儲けを現行の10万円強から上限5万円程度に変更しており、かつてのMAXスペックに比べるとローリスク・ローリターンの方向への規制が進んでいる。1995年に18,000店程度あった店舗数は2017年で9,800店。過去5年間で年間300店づつ閉店し続けている。

 ここにもローリスク・ローリターンを嫌う傾向が見られる。実際問題として1日中店舗に張り付いて勝ち続けても10万円程度と聞くと労働価値の問題がでてくるし、勝てた時の射幸心も満たされない。

射幸心を煽る商品なら売れる

 射幸心とは、「幸運によって他人より幸せになりたい」という欲求であり、例えば10人負けるリスクのなかで1人だけが勝てる幸運への欲求に繋がる。「国民の射幸心をあおるのは勤労によって財産を得ようとするという健全な経済的風俗を害する」という最高裁判例が賭博規制の根拠になっているが、ここには射幸心を煽られると弱いという前提がある。

 射幸心は金銭的なリターンに限らない、例えばソーシャルゲームにおいて「他の人が手に入れていないレアカードを幸運によって手にれた」状態を自慢する方が投資で5%増やしたり、パチンコで数万円勝つよりも心理的には満たされる。パチンコからソーシャルゲームに支出が移転したと言われるが、そのような理由で説明できるかもしれない。

さぁ、賭ケグルイましょう

 『賭博黙示録カイジ』とか、『賭ケグルイ』などのギャンブル漫画が人気だけど、そこで描かれるのも超ハイリスク・ハイリターンなギャンブルである。漫画だからというのもあるが、値動きが大きくないと滾れない。

 そもそもリスクのある金融商品にはリスクプレミアムが支払われる必要があって、リスク資産の期待収益率は無リスク資産の収益率を上回らないと手を出す必然性がないし金融業も成立しないのだけど、一般的なギャンブルにおいてはテラ銭としてマイナスのリスクプレミアムが発生する。

 それでも、ギャンブルをしてしまうのは、射幸心こそが実利を上回る快感になってしまうから。たとえ期待収益率が貯蓄よりも高いとしても、他を蹴落として圧倒的に勝てない投資ならしたくない。ちまちま増やすのではなくカイジのように溶かしたい。蛇喰夢子のように賭ケグルイたい。

 だけども現実には生活資金が必要だから、余裕資金を拠出してその範囲内では大きく値動きさせることのできる投機や博打が持て囃される。江戸時代から庶民にも浸透していた丁半賭博や富くじを例に出すまでもなく、日本人は貯蓄が好きなのではなく、博打が好きなのだろう。