太陽がまぶしかったから

C'etait a cause du soleil.

脳の臨界期を薬物で再開すれば絶対音感を作れるが精神疾患のリスクを伴う

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脳の臨界期が再開できれば

 加齢を重ねるごとに自分の頭が固くなったと感じるのだけど、それは医学的にも証明されていることらしい。絶対音感や語学の習得は幼少期のが簡単といわれているが、これは脳の「臨界期」によるものという。

 人間の学習活動は、脳の中に形成された神経回路の組み換えによって行われている。新しくなにかを学ぶごとに神経細胞の接合部であるシナプスがつながり、神経回路は新しいパターンに生まれ変わる。その繰り返しが、学習過程なのである。だが、この神経回路の組み換えは、ある年齢を超えるとあまり起きなくなってしまう。たとえば、絶対音感にまつわる回路では7歳頃までに形成されなければ、その後の人生での習得は難しいとされている。そして、この回路の組み換えが簡単に可能になるような、そんな幼少期の特権的な期間こそが「臨界期」なのだ。

 つまるところで、何かの体験や学習をしても加齢に伴って神経回路の組み換えが起きにくくなっていることが「頭の固さ」を生み出す。30を過ぎてからの婚活が上手くいきにくいのも同じだろう。相手の趣味嗜好に対する学習機会があったとしても性格や習慣を大幅に変えるのは難しいし苦痛だから、最初からぴったりな相手を探そうとしてしまう。

「頭の固さ」に守られている

 そこまで分かっているなら、いちど止まった脳の臨界期を再開させる薬やトレーニングや手術などがあればと思うのは当然だろう。このようなの研究はハーバード大学教授のヘンシュ貴雄博士などによって進んでおり、バルプロ酸投与による絶対音感の向上といった成果がでているという。しかしながら、氏によれば、それらを単純に適用すると幼いころから形成したアイデンティティを失う可能性があるという。

 「たとえば統合失調症などの精神疾患では、臨界期を終了させる遺伝子の多くが傷ついているのが見られます。つまり、彼らの脳の神経回路は、生涯にわたって必要以上に可塑性があり、そのため不安定であることを反映している可能性があるのです。その結果、彼らは外との関係を維持するのが困難になっているのかもしれません」

 脳の臨界期が終わらないままだと、些細なことで神経回路が繋ぎ変えられ続けて一貫性のある行動ができなくなってしまう。徹底的な柔軟性をもったある種の天才と精神疾患は紙一重というけど、凡人は「頭の固さ」に守られているところもあるのだ。自分や相手にとっての「正解」が変わり続けると断続的なコミニュケーション不全によって精神が失調する。

変化の激しい社会に無理に追いつこうとする問題

 将来的には正解が変わる「変化の激しい社会」に適応できるよう脳に手を加える必要があるのかもしれないが、薬物的な強化による社会環境の計画的廃品を加速させて「変化の激しい社会」を仕掛けられ続けることこそが大多数にとってはディストピアなのかもしれない。